老後のための資産形成は50歳からでも遅くはない

中野 やはり、だれでも95歳くらいまでは生きるという前提で、老後資金を準備する必要があるということですね。

中野晴啓(セゾン投信代表取締役社長)1987年明治大学卒、クレディセゾン入社。セゾングループの金融子会社にて資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用のほか、外国籍投資信託をはじめとした海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。2006年セゾン投信(株)を設立、2007年4月より現職。現在も全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にするための活動とともに積み立てによる長期投資を広く説き続け、「積立王子」と呼ばれている。著書に『投資信託はこの9本から選びなさい』(ダイヤモンド社)、『預金バカ 賢い人は銀行預金をやめている』(講談社+α新書)ほか多数。

野尻 そうですね。現在100歳以上まで生きる方も5万4000人もいらっしゃいますから、だれでもそのくらいまで生きるつもりで老後資金を準備しておく必要があります。

 特に女性はそうです。長生きですから、ご主人に先立たれて、一人暮らしになる可能性が高い。でも、もし95歳よりも前に死んで、準備していたお金が余ったら、そのまま子どもに相続すれば良いだけのこと。そのくらい余裕を持って準備しておく必要があります。

中野 しかし、50代になって何の準備も出来ていなかった人が、そこから老後資金を準備するのって、かなり大変なことですよね。20代、30代のうちはまだ老後資金を運用するのにリスクを取ることは出来ますが、50代になると高いリスクは取りにくい。何よりも時間を味方に付けるのが難しくなってしまいます。結果的に、預貯金での運用から逃れられないというケースも多くなります。

野尻 確かに、個人金融資産を見ても現預金が半分を占めていますからね。ただ、そろそろ預金が王様という時代は終わるのではないでしょうか。そのきっかけはデフレからインフレへの構造転換だと考えています。

中野 本格的にインフレが起った時、預貯金にお金を置きっ放しにしている人は、物価が上昇した分だけ富が失われます。一方で、インフレは国の借金を軽減させる効果がありますから、国は政策としてインフレにした方が、借金も減って嬉しいわけですよね。

 個人の預貯金が減って、その分国が富むという、これは言うなれば、個人から国への資産の移転が進むということです。
簡単に言えば預金は税金と同じなんだというイメージを持っておいた方が良いでしょうね。

運用できる年齢は75歳まで?
それとも一生運用し続ける?

中野 繰り返しになりますが、50代で退職後生活準備金が0円という人は、待ったなしで老後資金を作っていかなければなりませんね。

野尻 だからこそ資産運用が必要になるのですが、特に50代の方には「資産運用20年プロジェクト」を提唱しています。50代の方は、「もう時間もないし……」とおっしゃるのですが、だったら運用する時間を作れば良いのです。今の年齢が50代なら、70代まで運用する。そうすれば20年間という運用期間を作ることができます。

具体的には、60歳まではとにかく積み立てて運用します。そして60歳から75歳までは、使いながら運用します。多くの人は「運用する」というと、ただひたすら元本を殖やすことにしか目が行き届かないものですが、60歳からは資産を取り崩して生活資金に充てつつ減り方をコントロールするために運用も続ければ良いのです。そうすれば20年間の運用期間を確保できます。

中野 使いながら運用するって、本当に良いアイデアだと思うのですが、なかなか理解してくれない人も大勢いらっしゃるでしょう。

野尻 その通り。

中野 なぜか個人の方は、運用に期限を設けたがるようです。毎月少しずつ投資信託で積立投資して、運用益も含めてある程度、まとまったお金が出来たとするじゃないですか。ちょうどその時、お金が必要になったので、投資信託を解約しようと考えるのは良いのですが、なぜかそこで全額解約してしまうのです。

 投資信託の積立金額が全部で400万円。その時必要な資金が100万円だとしても、100万円分だけ投資信託を解約するという発想が無くて、とにかく全額解約なのです。で、残った300万円の運用先はどうなるのかというと、これが預貯金だったりするわけです。預貯金や保険のように「全額解約」をしなくてもいい、というのをわかってほしいですね。
私自身は、使いながらでも、一生、運用を続けて下さいと言いたいところなのですが…。