「成功体験の呪い」とは?
西條 リーダーシップを考えると、状況の真ん中に自分がいます。社会の状況も変わり、目的も変わっているのに、過去に正しかった方法を使い続ける経営者がいます。すると、変化に対応できず、成功した方法で失敗していくのです。僕はこれを「成功体験の呪い」と言っています。やっかいな呪いです(笑)。
石坂 とても耳の痛い話です(笑)。やっぱり自分自身が一番怖い。ある一つの考えに固執してしまうと、大きなミスにつながる。経営者として一つひとつの選択を誤ってはいけません。人の話を聞く、柔軟性を失わないようにする、これしかないと思っています。
西條 そうした姿勢は石坂産業の理念の筆頭にある「謙虚な心」「前向きな姿勢」というところにもつながっているのでしょうね。
議論するときに効く
「有効な代案」というキーワード
西條 意見を聞くことは大事なんですが、「ふんばろう東日本支援プロジェクト」では、「何でもいいから意見を言ってください」という言い方はしませんでした。「自由に意見を言いましょう」となると、「そういうのは好きじゃありません」とか「完璧じゃないと思います」とか、否定的な意見がいくらでも出てしまい、物事が進まなくなってしまうのです。そうではなく、「方法の原理」に基づいて、いまの「状況」と「目的」を踏まえたうえで、より有効な代案を出してください、とするのです。
石坂 「有効な代案」ですか?
西條 「正しい」「正しくない」の議論になると人の存在を傷つけるからです。doingではなく、beingの部分に入ってしまう。そうすると批判と反論の応酬みたいになり、建設的に内容を議論することができなくなる。そうならないように、「有効な代案を考える」をルールにしていました。
石坂 問題点を指摘できる社員は多い。でも指摘するだけで、解決方法を他人任せにしてしまうこともあります。誰かが考えた解決方法を実行すると、仕事ではなく、作業になってしまいます。それではつまらない。
西條 たしかにそうですね。
石坂 考える組織はまだまだ発展途上です。そこをなんとかするのが社長の仕事だと思っています。
西條 そうですね。「ふんばろう」では特に最初は、僕が提案することは多かったんですが、それは方向性を示しているだけで、具体的な方法を詰めていく作業は、みんなで状況と目的を踏まえて、より有効な代案を出し合うことで進めていきました。そうすると、みんなを巻き込んでいけるので、スタッフにとっても与えられたものではなく、自分たちで生み出したアイデアになります。そうすると、そこに愛着を持って、ぜひ実現しようと最後まで尽力してくれるようになる。当然、質もどんどんよくなっていく。より妥当な意思決定ができるようにもなります。
石坂 なるほど、それはよいですね。さっそく取り入れていきたいと思います。
(第6回へつづく)
埼玉県入間郡三芳町にある産業廃棄物処理会社・石坂産業株式会社代表取締役社長。99年、所沢市周辺の農作物がダイオキシンで汚染されているとの報道を機に、言われなき自社批判の矢面に立たされたことに憤慨。「私が会社を変える!」と父に直談判し、2002年、2代目社長に就任。荒廃した現場で社員教育を次々実行。それにより社員の4割が去り、平均年齢が55歳から35歳になっても断固やり抜く。結果、会社存続が危ぶまれる絶体絶命の状況から年商41億円に躍進。2012年、「脱・産廃屋」を目指し、ホタルや絶滅危惧種のニホンミツバチが飛び交う里山保全活動に取り組んだ結果、日本生態系協会のJHEP(ハビタット評価認証制度)最高ランクの「AAA」を取得(日本では2社のみ)。
2013年、経済産業省「おもてなし経営企業選」に選抜。同年、創業者の父から代表権を譲り受け、代表取締役社長に就任。同年12月、首相官邸からも招待。2014年、財団法人日本そうじ協会主催の「掃除大賞」と「文部科学大臣賞」をダブル受賞。トヨタ自動車、全日本空輸、日本経営合理化協会、各種中小企業、大臣、知事、大学教授、タレント、ベストセラー作家、小学生、中南米・カリブ10ヵ国大使まで、日本全国だけでなく世界中からも見学者があとをたたない。『心ゆさぶれ! 先輩ROCK YOU』(日本テレビ系)にも出演。「所沢のジャンヌ・ダルク」という異名も。本書が初の著書。