組織に関する膨大な仮説に
変数を導入して多面的に検証

 第1章「組織的行動」にこう書いてあります。

 本書では、組織研究者・組織著述家による組織記述の重要なものを体系的に概観する。組織理解への社会科学者の貢献が大きくなかったことは既に見てきた。にもかかわらず、組織は社会に多面的に影響するので、組織論の断片、破片、かけらと経験的データは、次のように広範な資料から収集可能である。

1.多くの経営者や行政官が、書物や論文の中で、伝記的・体系的に組織の経験を記録してきた。
2.科学的管理運動は組織論と関係しているし、経営管理の標準的教科書はほぼどれも良い組織の原則について一、二章を割いている。
3.社会学者の中には、組織について理論化し、体系的な観察を行った者もいて、そのほとんどはマックス・ウェーバーの「官僚制」の分析に影響を受けた者である。
4.社会心理学者は、組織行動の二つの側面――リーダーシップと監督、勤労意欲と従業員態度――に特別の興味を示してきた。最近になって、伝達パターンが組織行動に及ぼす影響についての研究にも着手している。
5.政治学者は、科学的管理法グループとまったく同様に政府組織の効率的運営の問題、さらに行政に対する外的(民主的)統制確保の問題にずっと関心をもってきた。
6.経済学者は、経済における市場操作、価格・配分メカニズムへの広い関心から、その構成要素としての企業の理論をつくった。さらに、計画か放任かという論争においても、組織についての考察が、体系的にではないにしろ重要な役割を果たしてきた。(5-6ページ)

 そこでサイモンらは、以上の広範な領域に関わる既存の仮説に検証可能な変数を定義してまとめていきます。

 サイモンは1949年にイリノイ工科大学からカーネギー・メロン大学に移り、政治学、心理学、情報科学の教授として在籍していました。ここで同僚の心理学、社会学、政治学教授ジェームズ・G・マーチと『オーガニゼーションズ』をまとめました。この大学の協力者はハロルド・ゲッコウほか大勢いる、と謝辞に書いてあります。

 フレデリック・テイラー『科学的管理法』などの「古典的組織論」、マックス・ウェーバーの『官僚制』、そして1950年代のゲーム理論、経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエクやルートヴィヒ・フォン・ミーゼスといったオーストリア学派の反集権論といった膨大な仮説に変数を取り入れて定義し、検証可能なスタイルにしていきます。そして限定合理的な人間像をもとにして歴史的な組織論を点描します。

 本書は膨大な文献を渉猟し、実験を繰り返し、組織論の歴史から課題まで書いてあります。各所に登場する概念、チャート、記述に記された「変数」に関しては索引化されています。「変数名」、たとえば「意思決定手法としての範疇化の使用」「手段メンバー間で知覚された目的所有の程度」などを選び、該当する本文や図版を当たるように工夫されています。

 なお、この「変数」の索引は、原著には該当ページ数が記載されていなかったそうで、訳者の東京大学教授・高橋伸夫さんが完成させた労作です。