出張先で携帯電話の電池残量が少なくなり困った。あるいは、大切な場面で携帯電話の電池切れに泣かされた。このような携帯電話の電池残量にまつわる失敗は少なくない。たとえ、充電器を持参したとしても、コンセントを探し、充電が完了するまで長時間を要することに腹立たしさをおぼえることもあるだろう。
いまや携帯電話は技術、サービスともに著しい進化を遂げ、便利なビジネスツールになっている。しかしながら、充電まわりに関する機能は、まだ発展の余地が大きく残されていた。そうした中、KDDI(au)と東芝は、10月に幕張メッセで開催されたデジタル家電展示会「シーテックジャパン」にて、燃料電池を内蔵した携帯電話の試作品を公開。将来、充電しなくても長時間連続使用できる携帯電話が実現する可能性を示した。
「充電不要」を実現させるキーとなるのは燃料電池の存在だ。これは通常の乾電池とは異なり、水素と酸素の化学反応で電気を生じさせる「発電機」に近い仕組みを有する。今回試作に成功したモデルでは、内蔵された燃料タンクにメタノールを注入することで、充電しなくても長時間連続使用が可能となる。
連続待ち受け時間は320時間。現行機種である東芝T0002の連続待受時間、約250時間と比較しても、同等以上の性能を誇る。現時点は試作に成功した段階で、正確な商品化時期は未定。商品化が決定されれば量産に向けての開発・設計段階に入る。
開発の背景には、KDDIの調査によってわかった「充電不要」へのニーズの高さがある。これまでもKDDIは、ソーラー充電できる携帯電話SOLAR PHONE SH002を発売して話題を呼んでいる。ただし、この機種は約10分の太陽光発電による充電で通話が約1分、待ち受けは約2時間の延長が可能になる程度。通常の充電がゼロになったわけではなく、また天候が悪いなどの条件によっては太陽光充電ができない場合もあり、あくまで補助的な位置づけに過ぎない。
その点、燃料電池は天候に関係なく、燃料を入れるだけで電池切れを気にせず長時間使える。もちろん、充電のためのコンセント探しも、充電完了までに時間を費やすことも不要で、商品化されれば高い人気を呼ぶことが予想される。
KDDIによると、「防災グッズ」という観点からも、充電不要への期待はあるという。5~6月に、KDDIが20代~40代の男女を対象に実施したアンケート調査の結果によると、地震で避難する際に必ず持っていきたいものとして「財布」「めがね・コンタクトレンズ」「携帯電話」があげられたという。くわえて、震災時に困ることは充電だということもわかった。
緊急時には、簡易充電器が売り切れる可能性も否定できず、携帯ショップなどの充電器には長蛇の列ができることが予想される。そもそも、電気自体が止まってしまう可能性もある。こうした災害時の需要を考えても、充電不要の携帯電話に高いニーズがあるのは確かだ。
KDDIでは、現在の試作品の厚さ22mmから、さらに軽量・薄型化を図り、将来は厚み20mm以下のものを開発したいと意気込んでいる。
(江口 陽子)