<意思決定の原則7>情報とその「出どころ」を多面的に確認する
私たちはみな、他者の姿や自分の行動をありのままに捉えたいと願い、また、そうしようと試みる。それにもかかわらず、食わせ者が称賛され、私心のない人が嘲笑されることがあまりに多い。また、他者の(あるいは自分の)お粗末な意思決定を、実際には効果がないのに、有効なものだと解釈することもある。
対応バイアスは、もとをたどれば人間のある欠点に行き着く。それは、判断をする際に、的外れなのに重要そうに見える情報に頼ってしまうという傾向だ。人間の持つこの一般的な傾向のために、陪審員は日ごろから被告を不当に評価し、投票者は候補者を見誤り、恋人たちは誤解しあい、その結果、無実の人が処刑され、無能な人が当選し、取るに足りない人が受け入れられる。
今述べたような、よくある誤りをしないようにするためには、どうすればいいだろうか? 脱線を避けるための第7の原則は、これだ。
〈原則7〉インフォメーション――情報とその「出どころ」を多面的に確認する
この原則は、自分や他者の行動の評価といった重要な決定にかかわる情報を、注意深く検討することがいかに有益であるかを際立たせてくれる。たとえば、他者について何か推測するときに、入手できるすべての情報に基づいて判断していると断言できるかどうか、じっくり考えることが大切だ。ある人の力量や信頼性についてあなたが抱いた「直感」は、私が述べたバイアスの結果にすぎないかもしれない。
そしてこれも覚えておいてほしいのだが、こうしたよくある誤りの影響を他者も受けている。だから、あなたの性格全般についてネガティブな推測をされかねない状況で、人に見られることがないようにするといい。たとえば、スタッフや同僚に働き者だと思われたいのなら、家や喫茶店で仕事をするよりも、オフィスで「顔を見せる時間」をとったほうがいいだろう。
情報源を検討すれば、意思決定をするために拠り所とするデータを調べ直して計画をやり遂げられる可能性が高まる。
私は以前、アメリカのある小売店チェーンの仕事をしたことがある。そのチェーン店は、成績指標を前より明確にして具体的な販売目標額を提示し、それを毎月の特別手当と連動させて、従業員のやる気を引き出そうという取り組みを始めた。この変更の結果は目覚ましく、たちまち生産性が上がり、ほとんどの従業員は各自の販売目標額に達しだした。店長たちは、従業員が勤勉に仕事に打ち込んでいる表れだとして、成績評価にこの情報を使いはじめた。
だが、数ヵ月後、会社の経営陣はそのデータをもう少し綿密に検討することにした。すると、従業員は各月の最終週に販売を増やしていることがわかった。さらに、複数の店で、特別手当を支給したあとの1週間は、返品が増加していた。指標の変更に動機づけられて、従業員は販売目標額に達するために月末が近づくと商品を自分で買い、特別手当をもらうとすぐに返品していたのだ。店長たちは、行動や成績についての不完全な情報に基づいて、従業員を評価していたことになる。
この例から、情報を批判的に吟味して、自分が正しい情報を評価しているのかどうか問うことがいかに重要であるかわかる。組織にとって、「情報源を検討する」という原則がいちばんよく働くのは、他者の行動の評価、とりわけ雇用や昇進の決定を行う方法に、構造的変更が伴うときかもしれない。
多くの組織では、インセンティブと望ましい行動とがうまく整合していない。たとえば、法律事務所は申告される労働時間数に応じて報酬を与えるので、従業員はゆっくりと働くインセンティブを与えられる。IBMは、以前は従業員が書いたコードの行数に基づいて報酬を与えていた。だが実際には、少ない行数でコードを書けるプログラマーほど、一般に有能なのだ。
(続く)
※本連載は、『失敗は「そこ」からはじまる』の一部を抜粋し、編集して構成しています。