劉 最後にチームの紹介をします。これも、MITに限らず様々な大学の学生が参加しているビルの授業の恩恵を被っていて、そこで出会った仲間とともに今の事業に取り組んでいます。アメリカでセールスを担当しているメンバーはハーバードの学生ですし、リードしてるエンジニアはMITのメディアラボの学生です。こういう仲間と会えたのも、MITにあるスタートアップのエコシステムのお陰かなと思っています。
失敗は「学習のチャンス」と捉える
田村 MITって聞けば聞くほどすごいですね。最初にビルさんに伺いたいのは、毎年900ものスタートアップを生み出せるのは、MITのどんな仕組み・風土によるものなのか、という点です。
ビル MITにはアントレプレナーシップの空気が満ちているので、その熱気をみなさん感じるはずです。成功したロールモデルも沢山あって、実際に成功した起業家に会うこともできます。会ってみると、意外ととても普通な人なわけです。ただの「お金持ちになった普通の人」です。みなさん、ここジョークですよ(笑)。
熱気を感じ取ると、自分でもできるんじゃないかと思い始めます。パレードがあるとみんな参加し始めますよね。パレードに入ると、うまくやっていきたいと思い始めるわけです。すると、クラスに入って学び始めます。そして、隣にいる学生も熱意を持っている。仮に、この劉さんが隣に座っていたら、自分も熱意を持たずにはいられないはずです。
それから私たちは、失敗を「学習のチャンス」と捉えています。劉さんもそうだし、私ももちろん失敗した経験があります。他の人たちも「私も失敗しましたよ」と経験談を話してくれます。つまり、失敗しないアントレプレナーシップというのはないんだ、とわかります。カロリーゼロの美味しいチョコレートが存在しないようにね。
MITでは、色々なオプションをもてて、新しいことにトライできる、しかもそれを手助けしてくれる人がいる、という環境を提供していいます。アントレプレナーシップというのは1人でやる競技ではなく、“チーム・スポーツ”です。士気が高まっていいときも悪いときもあるので、自分が落ち込んでいるときにもサポートしてくれる人が必要です。クレイジーな人たちに囲まれていることも大切です。色々ひどいことは起こるものですが、人に囲まれているとなんとかがんばれる、そして、結果的にそんなに悪くなかったなと思えるものです。それがエコシステムのパワーです。
ベンチャー・キャピタルからお金が潤沢に集まるからじゃないか、素晴らしく頭のよい学生が集まる大学だからじゃないか、とみな色々言います。実際いいわけですけど(笑)、でも他の場所で同じコースを教えたとしてもMITほど成功しないと思います。
アントレプレナーシップを全然持ち合わせずにやってくる人もいるんですよ。一例が、クリスティーンです。アントレプレナーシップをアメリカでもっとも持っていない人が集まっている場所がわかりますか? それはアメリカ政府ーーなかでもエネルギー省です。核施設を管理していて、失敗できないという仕事の性質ゆえもあるでしょう。そのなかでも最もアントレプレナーシップから遠いのが…財務の人間(笑)。それがクリスティーンでした。
その米エネルギー省の副部長だったクリスティーン自身、MITにやってきた時は起業家になる気はまったくなさそうでした。でも他の人が取り組んでいるのを見ると、自分もやりたいなと思うわけです。たとえばドミニカ共和国は多くの野球選手を輩出してますよね。強い選手がいると、ますます盛んになって強い選手が出てきます。ルーマニアは、古くはコマネチが有名ですが体操が強いですね。リトアニアはバスケが強いです。日本はなんでしょう? フィギュアスケート? つまり、そういう文化ができると相乗効果でどんどん高まっていくという状態がMITのアントレプレナーシップにはあるんです。