――そうした考えは自衛隊で養われたものなのですね。

 そうですね。やっぱり死ぬのは怖いと思っていましたし、飛行機に乗る直前まで、その恐怖を感じていました。実際に事故もあり、身近な方が亡くなったこともあったので。そのなかで死ぬとはどういうことかなと考える機会も多く、そうした考えに至ったのだと思います。

 こういう話は、勤務中に同期や先輩とすることもあります。四六時中一緒に仕事をしていると、本当に親密になります。たとえば、パイロット同士が飛行機の傍で待機しているとき、何もすることがなければ真面目な話もする。先輩などに相談しながら、自衛隊として、パイロットとして勤務している間に少しずつ養われていった感覚なのでしょうね。

宇宙飛行士になって学んだ
アメリカ、日本以外の視点

――宇宙飛行士になってから新たに学んだことはありますか。

 宇宙飛行士になってからは、自衛官のとき以上に幅広い視野を持てるようになりました。自衛隊にいたときは、アメリカとの関係がまずメインにあり、そこから世界を見るという形でした。もちろん、その中心には日本がいます。宇宙飛行士になってからは、ロシア、アメリカ、カナダ、ヨーロッパとISSの参加国のすべてを考えながら世界を見られるようになりました。一つレベルがあがったのではないかなと思っています。

 宇宙飛行士になってアメリカで訓練を受けていたときは、みんな似ているなと思うくらいで、まだアメリカと日本の関係ばかりを考えていました。しかし、ロシアに行って訓練を始めるようになってからは、一気に視野が広がりましたね。ロシアの人々と交流を図ったり、文化だけではなく歴史を学んだりしたときに、自分のいままでの世界の見方はアメリカと日本からしか見ていなかったと気づいたんです。

 それに気づいてからは、ほかの国からの見方があるはずだと思えるようになりました。とくに、日本と問題を抱えている国があったとしたら、そこの国の歴史や文化を勉強したいなと思っています。いまは時間がないのでそれができず残念ですが、こちらがいい、こちらが悪いだけではなく、向こうにも言い分があるはずだと考えられるようになったことは成長です。

――具体的に、ロシアではどのような経験をされたのでしょうか。

 最近のことで言えば、バックアップクルーとしてプライムクルーとほとんど一緒に行動していたときのことはよく覚えています。プライムクルーのロシア人の船長は、ロシアの空軍にいた方でした。ミグ29という戦闘機を操縦していた人ですが、ミグ29は私が乗っていたF15とライバル関係に近い戦闘機です。パイロット同士で酒を飲んだり、サウナに入りながら裸の付き合いもしたりしています。そのなかで非常に親しくなりました。

 最初は友だちから始まって、「お前は兄弟だ」と言ってくれるまでになったとき、こんなことを口にしていました。「自分を含めて、世の中に戦いたいと思っているヤツがどこにいるんだ。そんなヤツはいるはずない。俺が日本と真剣に友好を望んでいる気持ち、ロシア人のそうした気持ちを日本の人たちに伝えてくれ」。彼の想いを日本の人に伝えること、宇宙飛行士として得た経験をみなさんに伝えることは、私の義務だと思っています。

>>後編は2月3日(火)公開予定です。