あるパーティで、複数のFP(ファイナンシャルプランナー)と会った。いずれも、著作を何冊も出し、手広く活動されている現役の方がただ。彼らとひとしきり話し込んだのは、FPはいくらなら魂を売るのか、という話題だった。彼らは異口同音に、「FP商売は魂を売らないと大儲けができない。でも、私はそうしたくない」と言うのだった。「魂を売る」とは、何をすることなのだろうか。
最近、雑誌にあるFPが登場する銀行の広告が載っており、これがFP仲間のあいだで話題になっているらしい。内容の不適切性は明白だから名指しでもいいのだが、個別の人や銀行の商売を邪魔するつもりはないので、FPをA氏、銀行をM銀行(3大メガ銀はいずれもMだ)とする。
広告は、シニア層に毎月分配型の投資信託を勧めるものだ。この種の不適切な広告としては典型的なものなので、詳しく紹介する。M銀行の担当者が手を入れた可能性もあるが、文体はA氏のものだ。順を追って、巧みに毎月分配型ファンドを勧めている。
まず、退職者は公的年金だけではゆとりある生活ができないと、不安ないしは不足を意識させるところは、生命保険や健康食品などにもよくある手口で、この種の広告の定石だ。次に、かつては利息が収入源であったが、現在の低金利では「収入と言えません」と断定する。加えて、蓄えを「切り崩して生活するのは抵抗があります」と出口をあらかじめ塞ぐところが、巧みだ。毎月分配型を、抵抗なく使える定期収入をつくる仕組みとして位置づける。
そして、筆者が最初に見て目を丸くした次の一文がくる。「資産運用で肝心なのは、インカム・ゲインとキャピタル・ゲインを分けて考えること」だという。続いて、インカム・ゲインを得られる国債や社債は、国や企業が破綻しなければ利子と元本が返ってくるとわざわざ説明し、インカム・ゲインの安全性を印象づける。
最後近くに、値動きが異なったファンドを持つと「リスクの軽減が期待できます」と、他の商品を勧めながら、リスクへの言及のアリバイをつくっているのは巧みだ。
この説明を「あるべきFP」の立場から批判すると、まずインカム・ゲインとキャピタル・ゲインについては、両者を合わせて損得を考えるべきだ、という点が挙げられる。経済的な損につながるような顧客の無用の抵抗感やこだわりを、ていねいな説明で取り除き、大切なおカネを少しでも得に扱えるようにアドバイスするのが、正しいFPの道だろう。
またこの広告は、インカム・ゲインは安心だ、という印象を与えることに腐心している。銀行のセールストークでも、分配金の大きさと過去の分配金が安定していたということを繰り返すらしい。
リスクについては、単に「元本保証はない」とか、外国為替相場の変動により「値動きがある」という説明では、不十分だ。たとえば、1年で最大どれくらい値下がりする可能性があるか、ということへの具体的言及が必要だ。
この広告の掲載は金融商品取引法の施行前だが、金商法の施行後、広告の今回のような記述はどう判断されるのか。「大きさ」がよくわかる具体的記述のないリスク言及など無意味であり、それでいいなら、金商法はザル法である。金融庁の見識に注目したい。
A氏には、お会いしたことがある。彼の知識でも、今回の広告の内容がFPとしてダメなことはわかるはずだ。魂が安売りされているのを見るのは残念だ。