−−−−「時間価値」を意識したことで、ご自身の時間の使い方はどのように変わりましたか?

 一番変わったのは、休日に仕事のメールを見るのはランチタイムの1日1回と決めたことですね(笑)。前は気になって、休日でも頻繁にチェックしていたのですが、やめました。意識しないと、自分がやりたいことや集中して考えることというのができません。

 「すきま時間」にやっていることと言えば、一般的には人からの投げかけに対する受動的なリアクションがほとんどですが、これを能動的なプロアクトに変えていければ理想的です。「すきま時間」の活用は、あくまで準備や手段であって、目的は創造的な時間を楽しむことなんだ、と認識して、意識的に時間を使う必要がありますよね。

−−−−その点で、特に「伝統的エリートといえる、事務作業を担ってきたホワイトカラーの人たち」こそ変化に対応しづらい傾向を懸念されています。

 ええ、真面目なホワイトカラーの人ほど、IT化で仕事を取って代わられないよう自分のスキルアップを図ろうと、「すきま時間」を活用してまじめに努力する方が多いのではないでしょうか。すると、「やらなければいけないこと」だけに追い立てられて、一見有意義な時間の使い方をしているように見えても、クリエイティブな思考を鍛える機会を逸した状態に陥ります。つまり、努力すればするほど生産性が低い事務作業の仕事から逃れられない負のスパイラルに入り、「時間破産」とでも呼べる状況を生み出しかねません。

 他方、ポスト工業化社会で重用される創造性の高い人たちは、今まで以上に好きな時間に好きな空間で生きて、かつ「公」と「私」を自由自在に使い分けて生産性を高め、その姿勢に共感し魅力を感じる人々が周辺にいっそう集まるようになるでしょう。

 時間生産性を軸にした、新たなヒエラルキーが既にできつつあるのではないでしょうか。たとえば、同じ1時間を使って人と会うなら、準備時間を含めてそれをかけるだけの「価値」があるか否か判断する−−−−従来、1時間5万円などと時間当たりコストが明示されていた弁護士やコンサルタントと同じように、一般の人たちも会う相手を値付けする傾向が強まっていると思います。

−−−−企業においても「時間価値」の視点から、新しいサービスを繰り出したり、組織の生産性を高めているといった事例が見られますか。

 企業における「時間価値」という軸で考えると、2つの方向性が考えられます。企業の中のオペレーションを変える、あるいは「時間価値」に根ざした新しい商品・サービスを提供する。今回の『時間資本主義の到来』では、企業サイドの分析はしていませんが、色々出てくるのではないでしょうか。

 本書で分析した消費者視点の変化についていえば、ポイントは「時間の効率化」と「時間の快適化」にあります。特に分かりやすいのが「移動」の前後に発生する「すきま時間」も含めた効率化サービス−−−−典型例が、「駅ナカビジネス」です。乗り換える間の「すきま時間」を買い物や食事、マッサージなどで有効活用できる空間を提供して、大きなビジネスになっています。

 「移動」そのものについても、工夫の余地は大きそうです。たとえば東京−−岡山間は、飛行機と新幹線で正味の移動時間が殆ど変わらず選択に悩むところです。でも、ビジネス需要ならネット環境のスムーズさや安眠の確保、小さな子ども連れなら騒いでも迷惑にならない個室空間だとか、使用用途に応じた「時間の快適化」に対する要望をきちんと拾えれば、飛行機・新幹線のいずれもサービス向上の余地がまだまだ大きいでしょう。