【2】
リニューアルで終わらせないための2つのチェックポイント

「リニューアル」と「リデザイン」の違い。そこには2つのポイントがあります。

1つは、古いものの中から本質的な価値を正しく抜き出して活かせているか。

もう1つは、新しいターゲットを生み出しているか。この2点に尽きます。リニューアルは今までの延長線上にしかないから、同じターゲット、同じ市場を対象にしていますし、本質的な価値の抽出どころかそのまま肉づけしただけだったりします。

 わかりやすいのは、ウォークマンの色を青から赤に変えるのはリニューアルであって、それをiPodに変えるのはリデザイン、ということだと思います。「外で自分だけの音楽が聴ける」という本質的な価値は活かしながら、そこに新たな購入方法を組み合わせることで、新しいターゲットを開拓したわけですから。

【応用編】
ブランドのDNAを抽出して行った、スーツケースの「リデザイン」

本質的な価値の抽出を考えて行ったのが、10周年を迎えたスーツケースブランド「プロテカ」の全面リニューアル計画です。

 このプロジェクトは、ロゴをはじめ、各種店頭資材やカタログ、ウェブなどのグラフィックツール一式、すべての既存商品のブラッシュアップ、新商品の開発、店舗設計、そしてテレビCMなどの広告物すべてのデザイン監修など、プロテカに関わるあらゆるものに及ぶものでした。

 新生プロテカの重要なポイントとなる新たなブランドロゴは、まるで一筆書きのように「p」を象った単純な形態ですが、これによって、

1.protecaの「p」
2.内容物を両腕で抱くように優しく保護する
3.人と場所、人と人を結びつける
4.スーツケースが滑らかに移動する
5.商品寿命を終えたら土に還る(商品回収などのエコ活動)

 といった、プロテカが持っている本質的な価値、いわばDNAを内包させています。このロゴを、スーツケースの本体と「静音キャスター」(騒音を軽減する車輪)の左下に統一して配置しました。

日本のメーカーに必要なのは「温故知新」の発想法スーツケース本体左下と、「静音キャスター」に、ブランドロゴではる「p」を配置

 ほかにも、「Made in Japan」ならではの徹底した品質管理が生み出す信頼感、かゆい所に手が届く個性豊かな製品特徴を「量 -capacity」「軽 -light」「剛 -strong」と「1単語」で表現することで購入する際のわかりやすさへの配慮、カラーバリーエーションにプロテカを運営するエース社が1960年にスーツケースを製造販売しはじめた頃の商品の色味を取り入れることでブランドの「原点回帰」を意識したことなど、DNAを活かす工夫を盛り込んでリデザインしていきました。

 唯一気がかりなのは、自分が考えたテレビCMに自分自身が出演しちゃったことでしょうか。これがホントの自作自演ってやつです(笑)。ちゃんと「本質的な価値」を伝えられていればいいのですが……。