ある企業の編集部門で契約社員として雑誌の編集に当たっていた小酒部さんは、当時35歳。結婚し、すぐにでも子どもが欲しいと考えていた。妊娠がわかったとき、ちょうど繁忙期で納期が迫っており、妊娠について言い出せずにいた。1人で業務を担当していたため、代わりにできる社員もいなかった。連日深夜まで残業が続き、お腹に強い張りを感じた。受診して初めて、胎嚢が2つあり双子であったことを知ったが、心拍の見えていた胎児の動きは止まってしまい、妊娠8週で流産してしまった。

 次の妊娠を考え、会社側にはアシスタントを入れるか他の社員に情報を共有して欲しいと申し出たが、上司は「あと2~3年は妊娠を考えなくてもいいのではないか」と言われ、業務の改善はなされなかった。半年後、待望の妊娠がわかったが、すぐに切迫流産となり1週間会社を休んだ。その間にも、毎日メールや電話で仕事の連絡がくる。そのたびに、「休んで迷惑をかけた」と謝り続けた。これでは、療養どころではない。

 さらに、契約更新の時期だったことが小酒部さんを追い込んだ。お腹のなかの命がどうなるかも分からず一刻として心休まらない時に、上司がわざわざ自宅に訪問して4時間にわたって「(出産しても)契約社員は短時間勤務ができない」「どうしても仕事がしたいならアルバイトになるしかない」「今の時点で休んで穴を開けて、周囲に迷惑をかけている」などと、退職勧奨をしたのだ。

 お腹の張りがおさまり、契約更新がなくならないよう無理をして出社すると、2度目の流産をしてしまった。「もし、染色体の異常だったとしても、安静にできた環境だったなら、受け止め方は違った」と辛い胸のうちを語った。風邪やインフルエンザなどで休む1週間を会社はよしとしても、切迫流産で休む1週間は許容されないのが今の日本の職場の現状だ。

 2度の流産から排卵障がいが起こり、卵巣機能不全になった。医師から転職の意向はないかと聞かれたが、小酒部さんは「もう35歳。今から転職するよりは、この会社にお世話になりながら産めないだろうか」と考えた。医師からは「次の妊娠では流産を防ぐべき」と言われ、その際には安定期に入るまで仕事を休むよう宣告された。

「仕事に戻って来るなら妊娠は諦めろ」
人事部長の非常な物言いで心が決まった

 人事部長との面談で、「もし(次の妊娠で)何か起こったら休ませてもらえますか」と聞くと、「医師からの診断書があれば契約社員でも休むことができるが、個人的な意見として、辞めてもらったほうがいいのではないか」と言われたのだ。「いったん辞めて戻ってくればいい」と。

 しかし、社内を見れば正社員でも産後に復帰した人は減給されている。人事部長からの「仕事に戻ってくるなら、妊娠は9割諦めろ」という追い討ちをかけられるような言葉に、小酒部さんはその場で思わず「わかりました。辞めます」と口にしてしまった。

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