政策が波及する「乗数効果」って何?
世の中全体に波及……。わかるような、わからないような。
その波及の仕方を一つずつ、段階を追って解説しましょう。
●政府が財政政策として1兆円を使う(道路工事をする)
↓
●どこかの工事業者Aが、1兆円の仕事を請け負うことにな
り、利益が出る
↓
●その工事業者Aは、セメントなどの原材料をB社から仕入
れる。
↓
●B社の売上が増え、C社から備品を購入する。B社は社員
を増やす。
↓
●C社も売上が増え、D社から別の備品を購入する。
↓
●A社、B社、C社、D社でも社員が増える(もしくは給料が上がる)
↓
●新しく雇われた人、給料が上がった人たちが、商品を多く買う
↓
●世の中で商品が売れていく
↓
●世の中のお店が儲かる
↓
●国民の給料が増える
↓
●国民がもっと多く買い物をする
↓
●世の中のお店がもっと儲かる
↓
●国民の給料がもっと増える
という流れです。
ここで注目していただきたいのが、「国民の給料が増える」の後の、「国民がもっと多く買い物をする」「世の中のお店がもっと儲かる」「国民の給料がもっと増える」というところです。
一度、“いい循環”が生まれると、その“いい循環”自体が、次の“いい循環”を生み出します。これを経済学では「乗数効果」と呼んでいます。この理論通りに考えれば、政府が財政政策で使うお金は「呼び水」程度でよく、あとは“いい循環”が景気をどんどん改善してくれるはずです。
そして、財政政策を1兆円から2兆円に増やせば、それだけ恩恵を受ける人も増えていきます。財政政策をたくさん実施すれば、景気も「たくさん」良くなるし、少ししか実施しなければ、「少ししか」景気が良くならない、ということですね。つまり、政府は財政政策を通じて日本経済をある程度コントロールできるわけです。
金融政策でも、財政政策でも景気を良くできるんだね。何か違いはあるの?
財政政策は、政府が直接お金を使うので、金融緩和政策よりも「確実」に効果を出すことができます。さきほど紹介した金融緩和政策では、結局企業や個人がお金を借りてくれなかったら何の意味もなくなります。金利を下げても、銀行の手持ち資金が増えても、それで実際にお金を借りてくれなければ意味がありません。そして、実際にお金を借りてくれるとは限りません。
それに対して財政政策は「確実」です。政府がお金を使うと決めたら、実際にお金を使えるので、確実に民間企業の売上を増やすことができます。アベノミクスでも多額の税金を使って財政政策を行いました。民間企業に仕事を発注し、お金を渡しているわけですね。