公共事業なんてムダじゃない?

 政府は、なんとか景気を安定的に成長させようとして、財政政策を行っています。またその他景気を良くする目的以外にも、社会に必要なものをお金をかけて整備しています。

 なので本来は、財政政策は非常にありがたいものです。そして国民は「財政政策をもっとやってほしい!」「公共事業を増やしてほしい!」と感じるはずなんです。でも、実際はそう思っている人は少なそうです。なぜか?

 だって、公共事業はムダ遣いにしか思えないもん。

 そう感じている方は多いと思います。では、公共事業がムダに思えるのは、なぜでしょうか?かつて日本では、戦後の焼け野原からアメリカ・ヨーロッパ諸国に追いつき・追い越すために、一丸となって工業化と経済発展に注力しました。

 そのときはまだまだ道路や橋の数が足りず、社会や経済の基盤となるインフラ(正式には「インフラストラクチャー」といいます)が不足していました。道路や橋などは国内のモノの輸送に欠かせないもので、産業が効率化し、経済が発展していくにあたり、基盤・前提になるものです。

 そのため、まずは建築土木の整備が必要で、実際に、建設業に従事する人が労働力人口の約1割に達していました。必要性も高くて、直接影響を受ける人(建設業に携わっている人)も多かったため、長い間景気・雇用対策としてこの分野の公共事業が好んで使われていました。

 しかしながら、最近は事情が変わってきています。日本ではすでに、必要なインフラはかなり整備されてきました。つまり、もうそれほど必要ないんです。それに、公共事業で造る道路や建設物の多くは現時点で「未開発」の地域で行われます。ということは、人がたくさん住んでいる地域の「よく使われるもの」ではなく、人があまり利用しない地区で行われているのです。

 でも、それを造るお金は国民から税金として徴収しています。要するに、よく使う場所にはすべて行き届いてしまったので、これからは「あまり使わない場所」にしか造れないのです。

 また国全体で見ると建設業に従事している労働者の割合も、以前に比べて減ってきていますので、政府が行うダム建設で直接仕事が増えて恩恵を受ける人も少なくなっています。

 国民が生活している場所とは違うところに造り、しかもその仕事に従事する人が少なくなっていて、直接恩恵を受ける人が少なくなってきているのに、引き続き同じようなことを繰り返しているので、大多数の国民にとっては、公共事業は「ムダ」に思えてしまうのです。

 なんで、そんなムダなことばっかりにお金を使うの?

 ここまで説明してきて申し訳ないんですが、じつは、「公共事業ばっかり」にお金を使っているわけではありません。ぼくたちが思っているほど、道路工事などのいわゆる「公共事業」は行われていないのです。

 え!?  そうなの??

 1970年には国が使うお金の17.6%程度を占めていましたが、2014年は約6%まで下がっています。現在でも5兆円、道路や橋の建設にお金が使われてはいますが、かなり減ってきたんですね。

「無駄」と思えるような工事は引き続き残っています。しかし一方で「公共事業」が減ってきているという事実も正しく認識すべきです。

 じゃあ、政府はお金を使わなくなったってこと?

 いえ、そうではありません。道路や橋を建設する代わりに、別のものにお金を使っています。そしてそれが今の日本財政の大きな割合を占めています。

「別のもの」って、なに?

 それは、医療や年金などの社会保障です。ここが大事なポイントです。下の数字を見てください。これは国の支出計画です。集めた税金と借金(総額約96兆円)を、何に使うかが示されています。

・社会保障 31.5%
・地方交付税15.5%
・国債 23.5%
・公共事業 6%
・その他 19.8%

 これを見ると、医療や年金などの社会保障、地方交付税、国債費(国債を買ってくれた人への利子を払うお金&満期がきた借金を返すお金)がかなり大きな割合を占めていることがわかります。

 うん、そうだね。で?

「国(政府)が何にお金を使っているか」がわかると、必然的に「国がお金を使えなくなったときに、何が起こるか」が見えてきます。政府が借金漬けになると、社会保障にお金が支払えなくなり、地方にお金を渡せなくなり、借金取りに追い回されることになるんです。

 あ……。それは大変だ……。

 社会保障などにかかるお金は莫大ですが、簡単に切り捨てることはできません。とても大事なことです。日本国民としては「知らなかった」では済みませんよね。(第4回へ続く)