前回、非正規労働者に関していくつかのことを述べた。要約すれば、つぎのとおりである。
【図表1】正規・非正規雇用者(単位:万人) |
資料:総務省 |
(1)1980年代末以降の日本の雇用者の増加は、ほとんどが非正規雇用者によるものであった。正規雇用者は97年までは増加したが、その後ほぼ傾向的に減少した。その結果、87年と最近とを比べると、3300万人程度でほとんど変化がない。他方で、非正規雇用者はこの間に傾向的に増加を続け、87年には711万人であったものが2009年には約1700万人と、約1000万人増加した。つまり、雇用者総数は87年から最近までに約1000万人増加したのだが、それは非正規雇用者の増加による(【図表1】参照)。
(2)日本企業が非正規雇用者を増やしたのは、社会保険料の雇用主負担を回避することが最大の目的だったのではないかと考えられる。その証拠に、08年秋以降の急激な雇用減少のなかで、非正規雇用者だけが削減されたわけではない。これは、企業が人員整理の容易さだけを重視しているのではなく、人件費コストを重視して、手続き的には面倒でも正規雇用者を整理した結果であると考えられる。
つまり、日本の雇用問題においては、社会保険制度がきわめて重要な意味を持っているのだ。そして、以下に述べるように、日本の年金制度は、雇用問題によってきわめて深刻な影響を受けている。雇用と社会保険の問題は密接に関連しており、一方を無視しては他方を議論することができない。
増加した雇用者の一部しか厚生年金に加入しなかった
以下では、雇用と社会保険の関係を、より直接的に分析することとしよう。