いきなりこんな話を切り出して恐縮ではあるが、2010年4月から始まったこの連載も、今回が最終回とあいなる。5年間おつき合いいただいた読者には、心から感謝したい。
今頃になって説明するのもなんではあるが、連載中には色々な方から「妙なタイトルですね」と訝しげに言われた。なかには「ずいぶん謙虚なタイトルですね」とおっしゃる方もいたが、それは違う。こちらの本意は、「腰砕け地方自治通信記」なのだ。つまり、腰のすわっていない地方自治体の情けない実態のレポートという趣旨である。プライドが高い首長や地方議員、自治体職員などに配慮し、前後を入れ替えて「地方自治腰砕け通信記」にしただけなのである。
実際、日本の地方自治体のほとんどが自治という名に値しない体たらくを続けている。全国津々浦々を20年以上訪ね歩いていて、それを痛いほど実感している。住民は行政(自治体)にお任せ・要求し、行政(自治体)は国(政府・中央省庁)に依存し、すがりつく。その頼みの国は、アメリカの顔色ばかりをうかがっている。そんないびつな関係が強固に築き上げられ、いまやすっかり定着している。
それでも、1788ある自治体の中には、少ないながらも自治の道をしっかり歩んでいるところもある。三重県松阪市(連載第74回)、長野県下條村(連載第70回)、神奈川県秦野市(連載第60回)などだ。いずれも、住民本位の行政運営に手腕を発揮する首長の存在が大きい。
そんな輝く自治体の代表的な存在である松阪市の市長が、任期途中(この夏)での辞任を表明し、政界からの引退まで口にしたから、びっくり仰天してしまった。いったい何があったのか、本人を直撃取材することにした。
松阪市の山中光茂市長は、2009年に各党各会派相乗りの現職候補を破り、史上最年少(当時)となる33歳で市長に就任した。山中市長は、市民と職員が一体となって「役割と責任」を果たしていくまちづくりを掲げ、情報公開を徹底し、市民との直接対話に力を注いだ。政策決定前に「ワークショップ」や「意見聴取会」を開き、市民に政策形成過程に加わってもらうという、直接民主的な手法を導入した。