もう旧聞に属することであり、マイナーなテーマなのでご存知ない方も多いと思いますが、5月22日に、私的録音録画補償金の対象にブルーレイ・ディスクが追加されました。その顛末を見ていると、日本社会がコンテンツや文化というこれからの日本の宝に対していかに冷淡であるかがよく分かりますので、今週はこの問題を解説したいと思います。

私的録音録画補償金とは?

 ご存知ない方も多いと思うので、まず私的録音録画補償金について説明します。デジタル・コピーは、オリジナルと同じクオリティの複製を大量に作り出すことを可能にしました。それは世の中をすごく便利にする一方で、クリエイターの所得機会を減少させることになります。

 そこで、クリエイターの所得機会の減少を補うために、この制度が作られました。デジタルでの録音・録画を行う機器や媒体の価格の僅かな割合が補償金として徴収され、著作権者や隣接権者に分配されています。デジタルの恩恵を被る側に、クリエイターの所得機会の減少を補償するのに協力することを求めているのです。

 ところが、問題はたくさんあります。例えば、今や音楽の視聴形態はパソコンかMP3プレイヤーが主流なのに、それらは補償金の対象に入っていません。補償金の制度自体がインターネット(デジタルのダウンロードやストリーム)を前提としていないことに加え、負担が増えることを嫌うメーカー側の拒否姿勢ゆえに、新しい機器やメディアはなかなか補償金の対象にならないのです。

ブルーレイ・ディスクがもたらした混乱

 そんな中で、今回のブルーレイ追加は、一層の混乱と深刻な対立を産み出すことになりました。昨年6月にダビング10(デジタル放送の録画のダビングは10回までOK)の導入を総務省が決めた際、補償金制度を所管する文化庁と家電メーカーを所管する経産省との間で、ブルーレイ・ディスクを補償金制度の対象に加える旨の大臣合意が作られました。しかし、詳細を巡る意見調整に手間取り、約1年経ってようやくそれが実現したのです。

 その間の混乱の過程で明らかになったのは、家電メーカー側と権利者であるクリエイター側での大きな意見の相違です。分かりやすく一言で要約すると、メーカー側は、権利者がダビング10を容認し、そのための技術的な措置が施されているので、デジタル放送を録画する機器について補償金を払う必要はないと主張しています。一方、権利者側は、回数が制限されたとはいえ複製が可能である以上、補償金は払うべきだと主張しています。

 このように関係者の見解が分かれる中でやっとブルーレイが対象に追加されたのですが、それを周知する文化庁の通達の中では「今回の政令の制定に当たっても、今後、関係者の意見の相違が顕在化する場合には、その取扱について検討し、政令の見直しを含む必要な措置を適切に講ずることとしている」と書かれています。要は、補償金の徴収について家電メーカーが反対して揉めたらまた相談しましょう、と言っているのです。これは、意見対立の中で家電メーカーの要望が通ったことに他なりません。大臣合意から導入まで1年かかったように、揉めたら払わないでいれば調整で時間が過ぎて行くからです。