子どもの才能や体質を知る
非医療領域の遺伝子検査が発展
ただし、このような医療領域で重要な意味をもつ遺伝子検査ではなく、その必要性の有無が議論されている遺伝子検査があります。例えば、スポーツや音楽、学習などの子どもの才能・体質を知るための、非医療領域の遺伝子検査です。
総合科学雑誌「ネイチャー」のグループの教育部門である「Nature Education」で、米サンディエゴ大学(University of San Diego)のローラ・リバード博士が「スポーツの能力」に関する遺伝子検査の症例検討を行っています。以下、ご紹介します。
4年ごとに開催されるオリンピックでは、体操や水泳など、さまざまな競技に注目が集まりますよね。中でも「ランニング」は、特別な設備を必要とせず、誰もができる最も自然なスポーツですが、短距離走のトップアスリートは西アフリカ系黒人で独占されています。
2012年のジョン・エンタイン氏のレポートによると、100メートル走の世界トップ500人の短距離選手のうち、2人のみがアフリカ系黒人以外で、アジアや東アフリカ系のランナーはいません。この現象が生じた理由は、環境と教育の影響とよく説明されますが、科学者はそうでないと言います。トップの短距離走者と、それ以外の人たちとの違いに、遺伝子が関与しているというのです。
運動能力には多くの遺伝子が関与していますが、最もよく研究された遺伝子は「ACTN3」です。ACTN3は速筋繊維に発現し、速く強い筋肉の収縮に関与しています。ACTN3遺伝子には、RR型、XX型、RX型の3種類がありますが、これまでの研究から、短距離走のようなパワーの必要なスポーツのトップアスリートはRR型を、持久力の必要なスポーツのトップアスリートはXX型を持っている可能性が高いことを示唆しています。
ところが、この遺伝子を用いた研究では、アフリカVSオーストラリアVSヨーロッパの母集団によって結果は異なりました。特に、国際的なレベルで競技をしていないアスリートの集団で行った研究結果は不透明でした。このためACTN3遺伝子とスポーツのパフォーマンスとの関係についての研究は、まだまだ進行途上といえます。
それにもかかわらず、遺伝子検査ビジネスは、この研究結果を利用しようとしています。例えば、「Atlas Sports Genetics」は、200ドル以下でACTN3遺伝子検査を提供しており、子どもがどのスポーツを始めるか決める意思決定において最高の方法だと銘打って、両親向けに販売されています。このビジネスでは、スポーツ能力におけるACTN3遺伝子の重要性が誇大宣伝され、検査の科学的根拠が誤って伝えられているのです。このようなビジネスを規制しようにも連邦政府が介入するのは難しく、利用者が注意するほかありません。