もちろん将来は、研究成果が蓄積され、遺伝子検査によって運動能力がより正確に予測できるようになる可能性があります。スポーツや音楽、数学など得意分野を見極める遺伝情報が利用できるようになったとき、両親は子どもの長所を伸ばす最適の教育を受けさせるうえで遺伝子検査を受けるよう推奨される時代がやってくるかもしれません。ただし、子どもの才能を知るために本当にそうしたサービスを利用するべきなのでしょうか?

http://www.nature.com/scitable/forums/genetics-generation/case-study-in-genetic-testing-for-sports-107403644

 上記「ネイチャー」で紹介されたこの症例検討には、以下のようなコメントがよせられています。みなさんは、どう思われますか?

「トップアスリートには、筋肉の遺伝子だけではなく、精神力の強さ、勤勉さ、辛抱強さなども必要です。遺伝子は重要ですが、子どもの発達の唯一の側面ではありません」
「私たちは、好きなことを発見するのに喜びを感じます。子どもはいろいろ試してみて、生涯やることを決めるべきです」
「スポーツでは、挫折に対応する方法を学べます。これらの人生の教訓は、人生の早い段階で学んだほうがはるかに苦痛が少ないです」

子どもへの遺伝子検査は
差別をうむ恐れもある

 さらに、子どもの遺伝子検査は、特定の子どもが排除されたり差別に追い込む危険があります。事実、アメリカで問題になっている遺伝子をご紹介しましょう。

 鎌状赤血球症(sickle cell disease)という、アフリカ、インド、地中海や中近東で主に見られる、遺伝性の貧血があります。この病気は、子どもが両親から一つずつ、鎌状赤血球遺伝子を受け継いだ場合(ホモ接合体)に発症します。赤血球の形が鎌状になって、酸素を体にうまく運べないために貧血が起こります。一方、片方の親から鎌状赤血球遺伝子を受け継いで、もう片方の親から正常の遺伝子を受け継いだ場合(ヘテロ接合体)は、鎌状赤血球形質(Sickle cell trait)と呼ばれ、鎌状赤血球症は発症せずに保因者となります。

http://www.nhlbi.nih.gov/health/health-topics/topics/sca

 米国では、アフリカ系アメリカ人の8%が、鎌状赤血球形質といわれています。鎌状赤血球形質は、通常の生活では全く問題はありませんが、激しいトレーニングなどで極度の脱水状態になると、重篤な状況に陥る可能性があります。

 米ヒューストンにあるライス大学のアメリカンフットボールの選手(19歳)が、トレーニング後に横紋筋融解症のため死亡しました。死亡原因が、鎌状赤血球形質と関連したため、家族は全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association:NCAA)と大学に対して、検査を受けていれば防げる死亡事故だったとして訴訟を起こしました。