金融危機克服の切り札として期待されたオバマ新政権の金融安定化策。だが、市場の評価は低かった。財務省が発表した10日当日に、ニューヨークダウは381ドル下落。17日には前週末比297.81ドル安の7552.60ドルと2008年11月20日に付けた直近の安値とほぼ同水準にまで下げた。

 対策の主な柱は四つだ。一つ目は5000億ドルの官民共同不良資産買い取りファンド設立(将来的には一兆ドルまで拡大可能)。二つ目はABS(資産担保証券)などの買い取り資金をFRB(米連邦準備制度理事会)が融資するTALF(資産担保証券融資制度)の資金総額拡大。三つ目はストレステスト(資産査定)を受けた銀行(1000億ドル以上の資産を持つ銀行には義務づけ)に対する優先株出資枠である金融安定化信託の設立。四つ目は500億ドルを投じる住宅の差し押さえ防止策だ。

 一つ目の金融機関から不良資産を買い取る枠組みは、まさに市場が待ち望んでいたはずの切り札だった。にもかかわらず、なぜ市場の評価は低いのか。

 一つは規模である。IMF(国際通貨基金)は、問題資産残高は23.2兆ドルと見積もり、米国が被る損失だけで2.2兆ドルに上ると予測している。「損失額だけでもファンドの設定額を大きく上回る」(石原哲夫・みずほ証券シニアクレジットアナリスト)。

 買い取りスキームに民間資金が入ることも評価を下げた一因だ。

 官民共同ファンドは、じつは資産の買い取り価格を民間に決定させることになっている。不良資産の価格は最終的にどれだけ資金が回収されるかで本来決まる。しかし、買い手がいない現状では、市場価格はその理論価格を下回る。

 政府の全額出資であれば、償還までの保有を前提に理論価格での購入も可能だったろう。しかし、民間資金が入るとなれば事情は一変する。「利益を極大化したい民間は当然、市場価格に近い安い水準で買おうとする」(中川隆・大和証券SMBC金融市場調査部次長)のは間違いない。

 不良資産を保有する金融機関は売却によって多額の損失を計上しかねない。「売却させる強制力がない以上、多額の損失覚悟で売却に踏み切る金融機関は出てこない」(中空麻奈・BNPパリバ証券クレジット調査部長)。

 小さ過ぎる規模、民間資金導入。「いずれも財政負担を抑えようとしたため」(藤岡宏明・大和証券SMBC金融市場調査部次長)と見られる。

 米国債の信用度を示すCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)スプレッドは、08年12月以降、60べーシスポイント前後で高止まりしている。当局が米国債やドルの信認悪化、下落につながる財政赤字拡大は避けたいと考えたのも無理からぬところだ。

 金融危機克服と財政規律・ドル安回避のジレンマに米国政府は陥った。解決の糸口は見えない。

(『週刊ダイヤモンド』編集部  竹田孝洋)