「駅前家出」&「超プチ家出」
を繰り返した小島慶子

小島 私も「プチ家出」を何回もしているんです。かつては「駅前家出」もしました。そのことは子どもたちの記憶に鮮明に残っているようで、いまだによく言います。
  「レストランでパパを待っている間に、僕たちがあまりにもお行儀が悪かったから、パパがレストランに到着したとたんにママが家出したんだよね」って。

石坂典子(いしざか・のりこ)
石坂産業株式会社代表取締役社長。「所沢ダイオキシン騒動」最中に2代目社長に。地域から嫌われ、社員の4割が去る絶体絶命の状況から「脱・産廃屋」を目指し、社員教育を断行。12年かけて、トヨタ、全日空、日本経営合理化協会、各種中小企業、大臣、知事、大学教授、タレント、ベストセラー作家、小学生、中南米・カリブ10ヵ国大使まで、日本全国だけでなく世界中からも見学者があとを絶たない企業に変える。経済産業省「おもてなし経営企業選」選抜。2013年末、首相官邸からも招待。財団法人日本そうじ協会主催の「掃除大賞」と「文部科学大臣賞」をダブル受賞。『心ゆさぶれ!先輩ROCK YOU』(日本テレビ系)にも出演。ホタルやニホンミツバチが飛び交う里山保全活動に取り組み、JHEP(ハビタット評価認証制度)最高ランクの「AAA」を取得(日本では2社のみ)。「所沢のジャンヌ・ダルク」という異名も。本書が初の著書。(撮影:平山順一)

石坂 お子さんがおいくつくらいのとき?

小島 長男が小1、次男が保育園のとき。でも、行くあてなんかないので、駅の周りを2時間くらい歩き回って帰ったんです。マンションの部屋からエントランスまで家出したこともあった。エントランスの隅にひそんでいたら蚊が出たのですぐ帰りました(笑)。

石坂 「超プチ家出」ですね(笑)。でも、そういうことがあると子どもたちは変わる。うちの場合、それまでは自己主張が激しく、好き放題の生活していた子どもたちが、気を遣ってくれるようになりました。
 私が疲れた様子を見せると、「お風呂、先に入りなよ。お母さん、いちばん先に入っていいよ」と譲ってくれたり、「疲れているなら夕飯も外に食べにいけばいいじゃん」と声をかけてくれたり。

「お母さんらしさ」を
追及するとおかしくなる

小島 仕事をしながら育児をしていると、追いつめられるときがありますよね。それが母親としていいか悪いかというよりも、そうしないと生きていけなかった、というのが本音です。
 子育てがどうあるべきかを考えて実践するなんて余裕は、毎日の生活のなかにはありませんでした。

石坂 同感だなあ。他人から見た「お母さんらしさ」を追及するとおかしくなる。

小島 お母さんが、感情的に怒鳴ってしまって、あとから謝ったり……。プチ家出をして、あとから子どもと話し合ったり……。普通に考えるとおかしいだろうと思うんですが、理路整然としていないのが子育ての現場。そうとしか生きようのない家族の形のなかで、お互いを慮ったり、苦しんだり。特にお母さんが働いていたり、一人親だったりすると、その家族の文脈のなかでしかわからないところで、そうしたことがあると思うんです。

石坂 そうですね。

小島 石坂さんの本を読んで、「この人は社長業と子育てを両立させているんだ」と思うのは簡単だけど、活字になっていない行間の部分にどれだけのものがあるか。後ろめたさ、周囲にわかってもらえない怒り、ひそかに流した涙、そうしたなかでの喜びと、いろいろなものが詰まっている。

石坂 おお、代弁者(笑)。たしかにいろいろある(笑)。いちばん申し訳ないと思ったのは、子どもの習い事の発表会にほとんど行けなかったことかな。 いま振り返っても、きてほしかったんじゃないかって。そういうことを子どもは言わなかったけれど。

小島 小さい子を保育園に預けるとき、何とも思わない親はいないでしょう。さびしいものです。だけど、さびしくない人生はない。悲しくない人生はない。さびしかったり、悲しかったり、残念だなって思うことは必ずある。
 でも、そのときに同じ思いをしている人がいて、「一緒にがんばろう」と言ってくれたのか、自分一人が傷ついていたのか、では大違い。
 親と子どもの関係も同じで、私は、子どもが「行かないで」って言うときには、
 「ママも一緒にいたい。とってもつらいよ。でも、生きるためにはお金が必要だから、仕事に行くね。さびしいけど、一緒にがんばろう」
 と言っていました。
 それぞれの持ち場で、お互いに会いたいなあと思いながら、さびしい気持ちをかかえてすごし、再会したときには思い切り喜ぶ。こうことで絆が深まることって、あると思うんです。