イスキア仕込みの天国を実現
『森のイスキア』の周りには川がありますが、脇に水芭蕉の群生地があり、ほんとうに透明な水が流れています。
透明な鐘が鳴って、透明な温泉がわく建物の中には、透明なお母さんが座っておむすびをつくってくれる……。
こうやって生まれてきて、こういうひと時があるのなら、生まれてきた甲斐があったというか、なんて素敵なひと時だろうと、つくづく思いました。
そして自分もそのようなすばらしいひと時をつくり出したい、そんなふうに思わされました。
だから、わたしにとって初女さんは先生であると同時に同士という気持ちが強いんです。
自分も透明な気持ちで人と向かい合って、辛い思いを抱えてきた人に「大丈夫よ」と初女さんみたいに寄り添って、この世に小さな天国をつくり出したい。
その後、何度も『森のイスキア』を訪れては、癒され、励まされ、その思いは強くなっていき、ついに最近、奄美大島の加計呂麻島(かけろまじま)というところに、いわゆる“海のイスキア”をつくったのです。
島の海辺に600坪ほどの土地を借り受け、合宿所を建てて、昨年の夏には特に心の病で苦しんでいる人たちを受け入れました。
初女さんだったら、おいしいおむすびをつくることができますけれど、わたしはそういうものをつくれない。
だからどうしようかなと思ったのですが、おいしいものを出せば喜ぶだろうと思って、知り合いのパリの公邸シェフをやっていた友人に声をかけました。
でも、忙しいから絶対に無理だといいます。「でも、この頼みを断ると絶対に後悔するよ」って言ったら、「やります、やります」って(笑)。
それできてくれて、毎食、海で獲れたばかりのものを調理して、ほんとうにおいしい食事をつくってくれて、みんな次の食事が楽しみで楽しみでね。
心の病を抱えている人たちですから、苦しいけれど未来が見えない、自分が許せない、みんなが怖い、そんな現実を生きているのですが、小さな天国を体験して、ここでおいしいものを食べてちょっと癒されて、励まされて、そうするとその人の中から力が出てくる。
そういう場所を実現できました。
これを実現したことがイスキア仕込みの神父としては恩返しということでしょう。
初女さん、あなたがなさってきたすばらしい活動がこうしていろいろな形で花開いていますよって。