製造業に限らず広く通用する
トヨタ生産方式

〝異次元〟の金融緩和による資産価格の上昇や円安、公共事業の大盤振る舞いによる景気刺激と、このところ有卦に入る日本の大手メーカーですが、むろん安穏とはしていられません。追い風が吹くこの時こそ、強い会社へと変革を図る好機でしょう。

 そのヒントは今も、製造業の雄の強さ、そのDNAであるトヨタ生産方式に学ぶことにあるのではないでしょうか。メーカーだけではありません。業界を問わず、官民にかかわりなく、優れた教材となるはずです。

 そのトヨタ生産方式には、本欄第30回でご紹介した大野耐一著『トヨタ生産方式~脱規模の経営をめざして』というバイブルがあります。

若松義人、近藤哲夫著『トヨタ式人づくりモノづくり』2001年3月刊。『トヨタ生産方式』と併せ、何万人ものビジネスパーソンに読み継がれています。

 そのバイブルとともに読み込みたい、トヨタ生産方式に学ぶための最良のテキストをご紹介しましょう。若松義人・近藤哲夫著『トヨタ式人づくりモノづくり~異業種他業種への導入と展開』(弊社刊)です。

 評者も自動車業界担当時代、お二人の話を聞き、導入企業を取材し、トヨタ生産方式の肝、バックグラウンドを学びました。

 本書の冒頭で、大野耐一氏の薫陶を受けた、当時の張富士夫社長が推薦の言葉を寄せています。

「私も若いころ、紡績や時計の現場も経験して、トヨタ生産方式は、車だけの方式ではなく、どこでも通用する方式だという確信はもっていましたが、著者のお二人はさらに広い範囲で通用することを実証されています」

 現に著者のアドバイスはきわめて実践的です。次のような問題指摘に思い当たる節はないでしょうか。住宅用アルミサッシメーカーの事例紹介の一節にこうあります。

 コンサルティングの依頼を受けたときには、必ず働いている人たちの後に立って、終日その人たちの仕事ぶりを観察させていただく。「なぜあんな作業をやっているのか」「なぜあんな動きをするのか」「なぜこんな道具を使っているのか」と、「なぜ」を頭のなかで繰り返しながら、筆者なりの基準で仕事内容を判断すると、モノをつくっている人も、デスクワークの人も、八時間のうち、ほんのわずかな時間しか付加価値のある仕事をしていないのがほとんどだ。(177ページ)

 著者はこう言葉をつなぎます。

 私たちは、とかく現在行なっている仕事を「よく働いている」と自己満足しがちだが、自分の仕事をよくよく観察してみると、案外と付加価値を生む仕事の率は低い事実に気づかされる。なれ親しんでいる仕事のなかに、ムダはないか。改善の余地はないか。この考えからすべては始まる。(179ページ)

 続いて、1日1000種類の食品を60万パック生産していた食品会社の事例です。

 工場でつくった製品は隣接する物流センターに納入され、分荷の後、トラックで得意先に運ばれますが、欠品や遅延など物流クレームが目立って増えたそうです。こちらも覚えのあるようなエピソードではないでしょうか。

 K食品の欠品問題を掘り下げていく過程で、一番強く感じたのは「問題のホルダー(所有者)はいったい誰なのか」である。関心があるのは物流センターのセンター長だけで、いつも何か起きると「欠品は分荷の問題だ」と結論づける。その繰り返しでいつも一件落着となっていった。

 欠品問題については、一部の人が場当たり的な改善を施すだけで、その他大勢の人は評論家、傍観者的にこの問題を見ていたにすぎない。新しい専任プロジェクトでは、こうした人もそれぞれの役割を持ち、問題のホルダーとして参加、実践をして根本的な解決を測っていくよう試みた。(147ページ)