先の中間決算で業績回復が目立った電機や自動車業界。円安進行が背景にあると言われていますが、それだけでは説明がつかないほど好調なのがトヨタ自動車です。同社は2013年度上半期の営業利益として前年同期比81%増の1兆2554億円を計上しました。この好業績の背景には、原価低減のためのたゆまぬ努力の跡が見て取れます。
今回ご紹介するのは、そんな同社の生産管理手法を解説した『トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして』です。同社の業績が好調な今こそ、この古典的名著を読めばたくさんの気付きを得られるかもしれません。

営業利益の前年同期比が81%増!
トヨタ自動車の好調の背景

連結税引き前利益2兆円を生み出す<br />生産管理の古典的名著大野耐一著『トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして』
1978年5月刊行。トヨタ生産方式を説く本は数あれど、本家本流・元祖はまぎれもなくこの本です。

 トヨタ自動車の2013年度9月中間決算が発表されました。それによると連結売上高は前年同期比14.9%も増加し、12兆5374億円に達しました。1兆2554億円という営業利益(前年同期比81.0%増)は上半期としては過去2番目の水準で、営業利益率も6.4%から10.0%へと大幅に改善しました。14年3月期の通期決算見通しにおいても、連結税引き前利益は前期比63%増の2兆2000億円を見込んでいます。この利益予想額は、リーマン・ショック直前の08年3月期に記録した2兆4372億円に迫る水準です。

 まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。絶好調トヨタの復活と言いたいところですが、決算書をよく見ると、クルマの販売台数は前年並みであったことが読み取れます。にもかかわらず売上高が増加したのは、円安効果にほかなりません。もっとも、利益率の大幅な向上は為替変動の影響に加えて、「原価低減」の努力が実ったことが背景にあります。ニッサン、マツダ、三菱自動車3社の原価率はほぼ横ばいでしたが、トヨタのそれは87%から82%に低下しました。

 08年9月に起きたリーマン・ショック後の世界金融危機は、世界の自動車販売台数を急減させました。拡大路線をひた走っていたトヨタは大打撃を受け、翌09年3月期決算で58年ぶりの大赤字に転落してしまったのです。大きな痛手を被ったトヨタは以降、製造現場を根本から見直し、ひたすら改善に努めることで体質強化を図ってきました。「3M」と呼ばれるムダ・ムラ・ムリを徹底して排除するなど「トヨタ生産方式」の原点に立ち戻り、サプライチェーンの再構築によって実現した原価低減こそが、今回の好決算を演出した最大の要因と思われます。

 本書『トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして』は、78年5月に刊行されました。トヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売が併存していた、いわゆる「工販分離」の時代です(その後82年の「工販合併」により、現在のトヨタ自動車が誕生しました)。著者の大野耐一氏は当時、トヨタ自工の副社長職にあり、戦後約30年をかけてトヨタの生産方式を体系化した人物として知る人ぞ知る存在でした。

トヨタ生産方式は、多種少量で安くつくることのできる方法である。多種大量であればなおさら結構である。要するに、オイルショック以後の低成長時代、コストをいかに安くするかをめぐって、トヨタ生産方式が世間からクローズ・アップされてきているように思う。(5ページ)