「答え」から先に考える
―― では、もう一つのアプローチは?
レヴィット 「ふだんとは違うことをする」ということです。
何かの疑問やアイデアについて考えているとき、たとえば書店に行くにしても、ふだんは行かない分野の棚に行ってみるんです。そこにある本をランダムに手に取ってページをめくったりしてヒントを探します。あるいは、自分がまったく無知なジャンルの専門家に連絡を取って相談したりします。
そうやって考えを広げていくなかで仮説が出てくると、ためしに「それが答えだ」と仮定してみたうえでその検証材料を探していきます。そうすることによって、ふつうにアプローチしていたのでは見つからなかった視点が開けてくることがあります。
私の研究生活においてこれまでに最も物議をかもした研究は、
「90年代にアメリカで凶悪犯罪が激減した理由は、銃規制でも凶悪犯罪の厳罰化でもなく、70年代に人工中絶を合法化したことだ」
ということを論じたものですが、それはこのようなアプローチから生まれたものです。これまで誰も考えもしなかったような答えを見つけるには、積み上げ式ではなく、仮説、つまり答えから先に探すという方法が有効なのです。
思考の「バイアス」から解放されるには?
―― 本の中では、思考にかかっているさまざまなバイアスから脱することが大事だと書かれていますが、その方法についてアドバイスはありますか?
レヴィット バイアスというのは、すべてが悪いものではありません。
その先入観が人種差別ならそれはネガティブなバイアスですが、「他の人はそうは考えていないけれど、自分はこうなると信じている」という、いわば信念のようなものもあります。これはポジティブなバイアスと言っていいでしょう。「健全な偏見」と言えると思います。
そういう意味では、私は経済学者として「市場の力を信じている」というバイアスを持っています。
ですから、ある問題を解決しようと考えるときに、「どうすれば市場を利用してその問題を解決できるか」という出発点から考えることはよくあります。
ですが、その真の解決法は市場ではないということが明らかになっても、「市場が解決できる」と言い続けることは避けたいと思っています。
重要なことは、自分にはバイアスがあるということを含めて、あらゆる問題に対して「オープン」でいることであり、柔軟に考えることです。