「モラル」はわきにおいて考える

レヴィット 本の中では、人は「道徳のコンパス」に左右されがちだということも書いています。

 たとえば政治でも、福祉政策や環境問題のようなモラルが問われる類いの問題については、他の問題と違った扱い方がされがちですが、経済効率について考えるのであれば、道徳的な物差しとは関係なく他と同じように扱わなくてはいけない。

「道徳のコンパス」とは、世界がどのようなものであってほしいかという願望のようなものです。あまりに自分の理想を信じすぎると、現実の世界を見る力を失ってしまいます。

 たとえば人間が犯罪を犯しうるということは、人として認めたくないかもしれません。

 しかしなぜ犯罪が減ったのかを研究するには「人間は犯罪を犯す」ということを認めて、そこから考えていかなくてはいけません。そうして世界がどのようにして動いているのかを前提において、自分が世界について知っていることを使って、どうすればできるだけ世界をいい場所にできるかを考えればよいのです。

「中絶の合法化によって凶悪犯罪が減った」などと言うと、私が中絶はすばらしいと言っているかのように感じる人もいるようですが、これは私が中絶についてどう思っているかとは関係ありません。

「誰かが70年代に中絶を合法化すると決定した。その結果、90年代の犯罪が減少した」という事実がある。それは非常に興味深い事実で、そのことに向き合うことは、今後の中絶政策や犯罪について考えていくときにプラスになるということです。(第5回に続く)

聞き手:大野和基(国際ジャーナリスト)