「かたちを変えた保護主義が横行すると問題だ」
ジェトロ幹部は、国際貿易が大きく縮小しかねないある動きを警戒している。各国で台頭する保護貿易的な措置の陰で、表面上は別の理由を主張しながらも実質的な輸入規制に当たる“隠れ保護主義”ともいえる流れが頭をもたげているのである。
昨年11月のG20による金融サミットでは、保護主義の拡大を防ぐため、サミット後12ヵ月は新たな貿易障壁を設けないことで一致していた。しかし、世界貿易機関(WTO)が行なった緊急調査では、関税引き上げや国内産業支援など19件の「保護主義的な措置」が判明した。
自由貿易をうたうジェトロは保護主義に関する情報収集を強化しており、政府と連携し各国に積極的に申し入れを行なう方針だ。
ただ厄介なのが、一見すると保護主義とはいえない措置だ。
たとえば、インドネシアは今年に入り、中国からの「密輸品対策」を名目にして、電気製品、飲食品など5分野で輸入制限に乗り出し、波紋を広げた。
通関できる港が制限され、船積み前検査が義務づけられたため、大手メーカーや商社をはじめとする日本企業は「手続きが煩雑になり、実質的な保護貿易に当たる」と反発。これに対しインドネシア政府は「保護貿易政策ではなく、あくまでも密輸防止のため」と譲らなかった。
最終的には、妥協案として「日本の商社など優良企業については例外措置が設けられた」(ジェトロ)ことで事なきを得たが、別の目的を掲げて保護主義的な施策を取るケースが最近増えている。
バイアメリカン条項で揺れる米国もしかりだ。日本ではあまり知られていないが、食肉などの原産地表示制度「COOL」の導入が問題化。食品の安全確保が目的だが、カナダから、家畜の輸入障壁で保護主義に当たるとの批判を受けている。
自ら宣言して保護貿易を行なう国などなく、その定義は難しい。
日系の輸出企業関係者は「各国とも表立ったWTO協定違反は避けようとしている。その代わりに灰色ではあるが黒ではない、そんな施策が横行している」と歯ぎしりする。
今のところ、隠れ保護主義で目立った被害が出ているわけではないが、食品安全、密輸対策などを大義名分に掲げられると、WTOや相手国は手を出しにくいのが現状だ。過度の規制強化は保護貿易と表裏一体であり、世界同時不況をさらに深刻化させる愚挙にほかならない。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 山口圭介)