新聞やTVの断片的な情報だけでは、めまぐるしく変わる世界情勢は根本的には理解できない。ニュースの前に、知っておくべき基礎知識というのがある。
私の『アメリカ、ロシア、中国、イスラム圏を知れば、この複雑な世界が手に取るようにわかる』という著書の中で、この「知っておくべき」基礎知識を集めたが、今回は「イスラム原理主義者の若者の心をとらえているものは何か」について説明する。

原理主義理論家がつくり出した
「6番目の義務ジハード(聖戦)」が若者の心をとらえた

 1980年代、イスラム原理主義の前身である、エジプトの「ムスリム同胞団」は緩やかな社会変革を目指す組織だった。しかし、それに挑戦するかのように電気技師だったアブドゥルサラーム・ファラグが『無視された義務』を著し、過激な原理主義理論を打ち出した。

 彼は礼拝や断食などイスラム教徒の5大義務である「五行」の他に、6番目の隠れた義務として「ジハード(聖戦)」があると主張したのだ。
 これは一気に若者たちの心をとらえた。

 「ジハード……それは神の大義であり、宗教の将来にとって極めて重要であるにもかかわらず、この時代のウラマーによって無視されてきた。(中略)剣の力によってのみ、この世の偶像をなくすことができる」。

 ファラグは腐敗した権力者と戦い、理想社会であるウンマを実現するために、背教者や異教徒へのテロは、ジハードとして正当化されると説いた。

 ファラグの著作は発禁になったが、純真な学生や青年たちの心をとらえ、そのコピーは地下で回覧され、エジプトのみならずイスラム世界の原理主義運動を先鋭化させた。

 イスラム社会でイスラム過激派が支持されるのには、長い間各地で独裁政権が続き、政治の腐敗が慢性化していたという背景がある。