守ると攻められない

LINE(株)CEOを退任した森川亮氏が明かす!<br />「自分を守ろう」とすると、必ず失敗する理由1967年生まれ。筑波大学卒業後、日本テレビ放送網に入社。コンピュータシステム部門に配属され、多数の新規事業立ち上げに携わる。2000年にソニー入社。ブロードバンド事業を展開するジョイントベンチャーを成功に導く。03年にハンゲーム・ジャパン(株)(現LINE(株))入社。07年に同社の代表取締役社長に就任。15年3月にLINE(株)代表取締役社長を退任し、顧問に就任。同年4月、動画メディアを運営するC Channel(株)を設立、代表取締役に就任。(写真:榊智朗)

 ハンゲーム・ジャパン株式会社がパソコン向けオンライン・ゲームで日本トップに立ったころのことです。

 ちょうどそのころ、フィーチャーフォン向けのゲームのニーズが高まりつつありました。それを察知した僕たちは、2004年にフィーチャーフォン向けのゲーム・サイトを開設。「モバゲータウン」のオープンが2006年ですから、2年も先駆けていました。

 ところが、僕たちはスタンスを間違えてしまった。
 パソコンを主力と位置づけ、フィーチャーフォンはそれを補完するものと考えてしまった。要するに、パソコン向けサービスを「守ろう」としたのです。しかし、それはフィーチャーフォンのユーザーが求めていたものではありませんでした。

 そこに、切り込んできたのがDeNAやGREEでした。フィーチャーフォンに特化したゲーム・サイトを次々とオープン。大成功を収めたのです。僕たちが、同様のサイトの開設に漕ぎつけたのは2008年。すでに時遅し。もはや挽回不能でした。

 まさに痛恨の失敗。やはり成功を捨てるのは難しい。売上が落ちるのが恐いし、過去の資産を捨てるのも惜しい。それらを守りたいと思うのは、経営者として自然な感情なのです。しかし、その結果、変化への対応を誤る。だからこそ、強い意思をもって「古いもの」を捨てる覚悟をしなければならない。それを、僕は深く学んだのです。

 この失敗がのちに活きます。スマートフォンという「変化の波」が訪れたとき、経営陣全員が「リソースをスマートフォンに集中させる」ことに賛成。他社に先駆けてスマートフォン・ユーザーのことだけに集中する体制を整えることができたのです。

 ここに、チャンスが生まれました。なぜなら、フィーチャーフォンで成功していた多くの会社が、「過去の成功」を守ろうとしていたからです。そのひとつがユーザーID。彼らがリリースしたアプリには、フィーチャーフォンと共通のID認証が必要でした。しかし、それはユーザーが求めていることではなかった。面倒だからです。事実、それらはダウンロードはされても、実際に使用される割合はきわめて低かった。

 そこで、LINEの企画開発メンバーは、「電話帳こそ人間関係」というコンセプトのもと、twitterやfacebookのIDはもちろん、同じグループであるハンゲームやNAVER、livedoorのIDも排除。電話番号で簡単に認証できる、シンプルな仕組みを構築しました。これが、LINEが普及する一因となったのです。

 もしも、経営が「守ろう」としていたらどうなったか? おそらく、彼らの判断を尊重できなかったはずです。だから、僕は改めて「守ると攻められない」という言葉を噛みしめています。いつか再び訪れる「大きな変化」に対応するために、この言葉を絶対に忘れてはならないと思うのです。