守ると攻められない
ハンゲーム・ジャパン株式会社がパソコン向けオンライン・ゲームで日本トップに立ったころのことです。
ちょうどそのころ、フィーチャーフォン向けのゲームのニーズが高まりつつありました。それを察知した僕たちは、2004年にフィーチャーフォン向けのゲーム・サイトを開設。「モバゲータウン」のオープンが2006年ですから、2年も先駆けていました。
ところが、僕たちはスタンスを間違えてしまった。
パソコンを主力と位置づけ、フィーチャーフォンはそれを補完するものと考えてしまった。要するに、パソコン向けサービスを「守ろう」としたのです。しかし、それはフィーチャーフォンのユーザーが求めていたものではありませんでした。
そこに、切り込んできたのがDeNAやGREEでした。フィーチャーフォンに特化したゲーム・サイトを次々とオープン。大成功を収めたのです。僕たちが、同様のサイトの開設に漕ぎつけたのは2008年。すでに時遅し。もはや挽回不能でした。
まさに痛恨の失敗。やはり成功を捨てるのは難しい。売上が落ちるのが恐いし、過去の資産を捨てるのも惜しい。それらを守りたいと思うのは、経営者として自然な感情なのです。しかし、その結果、変化への対応を誤る。だからこそ、強い意思をもって「古いもの」を捨てる覚悟をしなければならない。それを、僕は深く学んだのです。
この失敗がのちに活きます。スマートフォンという「変化の波」が訪れたとき、経営陣全員が「リソースをスマートフォンに集中させる」ことに賛成。他社に先駆けてスマートフォン・ユーザーのことだけに集中する体制を整えることができたのです。
ここに、チャンスが生まれました。なぜなら、フィーチャーフォンで成功していた多くの会社が、「過去の成功」を守ろうとしていたからです。そのひとつがユーザーID。彼らがリリースしたアプリには、フィーチャーフォンと共通のID認証が必要でした。しかし、それはユーザーが求めていることではなかった。面倒だからです。事実、それらはダウンロードはされても、実際に使用される割合はきわめて低かった。
そこで、LINEの企画開発メンバーは、「電話帳こそ人間関係」というコンセプトのもと、twitterやfacebookのIDはもちろん、同じグループであるハンゲームやNAVER、livedoorのIDも排除。電話番号で簡単に認証できる、シンプルな仕組みを構築しました。これが、LINEが普及する一因となったのです。
もしも、経営が「守ろう」としていたらどうなったか? おそらく、彼らの判断を尊重できなかったはずです。だから、僕は改めて「守ると攻められない」という言葉を噛みしめています。いつか再び訪れる「大きな変化」に対応するために、この言葉を絶対に忘れてはならないと思うのです。