「史実と科学的データ」こそが
未来を教えてくれる

坪井歴史の記述と分析が重要ですね。

広瀬 よく「核兵器」という言い方をします。でもこれは「攻撃側が使う用語」なのです。
 被害を受けた側は「核兵器」ではなく「原子爆弾」と呼び、「核兵器禁止運動」と言わずに、「原水爆禁止運動」と言います。「公害」(攻撃者側)と抽象化するのではなく、「水俣病、イタイイタイ病」(被害者側)と言うのと同じです。
 今回の本は、一面でフクシマ原発事故を扱った本ですが、一面で歴史の本でもあります。史実こそがこれからの未来を予測するうえで有益な示唆をくれると確信しているからです。
 安倍晋三の目に余る暴走のために、国会議事堂近くに「戦争反対」のシュプレヒコールをあげる大学生や高校生が増えてきました。すばらしいことです。
 戦後70年の今こそ、本書にある原爆と原発の「双子の悪魔」の歴史、つまり戦争と原子力の関係を、巨悪の本丸IAEA(国際原子力機関)やICRP(国際放射線防護委員会)の正体から、抽象論ではなく、個別具体的な固有名詞と壮大な史実と科学的データで、若い世代に知ってほしいと強く思っています。

坪井 広瀬さんとは1980年代後半からのおつき合いです。当時、「BOX」という月刊誌がダイヤモンド社にありました。編集部でアメリカのオンライン・データベースを導入したのですが、広瀬さんをお誘いしてインターネットがない時代に海外のデータベースを大量に検索し、チェルノブイリ事故の実像に迫ろうとしました。
 30年前から広瀬さんの主張は1ミリも変わっていません。
 チェルノブイリはあれだけの大事故だったのに、4年後の1990年には「原子力はクリーンエネルギー」と言われるようになりましたよね。

広瀬 フランスの当時の大統領、ミッテランがそういうふうに宣伝したのですね。そもそも原発事故が最初に起きた1979年のスリーマイル島原発事故の前から、原子力発電ビジネスは衰退期に入っていました。原発ルネッサンスは虚言だったのです。

坪井 本書にも、2014年に巨額の欠損を抱えたフランスの国営原子力会社、アレヴァの実質経営破綻の事例が出ていますが、先進国で原発ビジネスが低迷するなか、日本は国内で再稼働に走り、新興国への輸出にのめり込んでいます。
 細川元首相や小泉元首相だってハタと覚醒したわけでしょう、政府が判断すれば原発はやめられると。原発がゼロになっても誰も困りません。電力も十分にある。研究者の欠乏を避け、研究水準を維持するためには、廃炉と放射性廃棄物処理の研究開発に投資すればいいと思うんですよね。

広瀬 先日、東芝の不正会計問題でウェスティングハウス・エレクトリックの買収が巨大な損失を生み出した問題で、原子力の末期的状況がクローズアップされましたが、三菱重工が「アメリカのサザンカリフォルニアエジソン社のサンオノフレ原子力発電所」に2009~2010年に納入した蒸気発生器が事故を起こし、原子炉2基が廃炉に追い込まれ、9300億円の損害賠償訴訟を起こされました。原発ビジネスに明日はありません。

坪井 3回に及ぶ対談をありがとうございました。