財務省が2017年4月予定の消費増税に合わせて導入する「日本型軽減税率制度」を提案した。なぜ、天下の財務省が突っ込みどころ満載の案を出したのか。ある財務省OBは「レースはまだ競技場を出たばかり、この案が本命とは限らない」と言う。財務省の深謀遠慮はどこに。(「週刊ダイヤモンド」編集部 原 英次郎)

マイナンバーカードを活用した軽減税率制度は、持ち歩く消費者にも、事務作業が増す小売業者にも負担と、悪評高い。だが、批判続出も財務省にとっては想定内というのだが…… Photo:REUTERS/アフロ

「ほんとマスコミは単純だな。この案が本命であるとは限らないよ」。財務省の手練手管を熟知している同省OBの見立てだ。

 その案とは、去る10日に財務省が与党税制協議会に提示した「日本型軽減税率制度」。案が提示されるや否や、メディアのみならず、自民・公明の与党内からも問題点の指摘が相次いでいる。

 財務省案は、2017年4月に予定される消費税の8%から10%への引き上げに際し、軽減税率対象品目の2%を払い戻す還付制度を導入するというもの。対象品目は外食を含む飲食料品。還付の上限金額は4000円との報道もあったが、今後の検討課題とされた。

 具体的なやり方としては、16年1月から始まるマイナンバー(社会保障・税共通番号)制度で、希望者に配布されるマイナンバーカードを使う。各個人がレジでマイナンバーカードをかざし、消費税2%分の「還付ポイント」を得る。対象商品の購入情報は政府が新たに設立する「還付ポイント蓄積センター」に送られて蓄積され、パソコンなどで請求すれば、振込口座に税が還付される。

「財務省の苦肉の策」と評価するのは、財務省OBで明治大学大学院の田中秀明教授だ。軽減税率は15年度の与党税制改正大綱で、消費税率10%時に導入するとされており、この5月には与党税制協議会で、対象品目を「酒類を除く食料品」「生鮮食品」「精米」の三つに分けて検討されたが、課題が多く、結論が先送りされていた。

 そもそも消費税は税率が同じであるため、所得に占める消費の割合が高い低所得者層の負担が重いという逆進性の問題を抱えている。消費税率が上がればその負担はさらに重くなる。そこで、EU(欧州連合)では、食料品など生活必需品には標準税率より低い軽減税率を適用している国が多く、特に公明党がその導入を強く主張していた。

 だが、軽減税率は対象商品の線引きが難しい。例えば、英国では同じバナナでありながら、店内で食べると標準税率で、持ち帰ると税率の低い食品扱いというおかしなことも起こっている。そして何より、軽減税率はお金持ちにも同様に適用されるため、逆進性の改善効果がない。