インターン制度や企業との共同研究など
データ解析で社会と積極的に連携する
−−−−今回の学部名が「統計学部」でなく「データサイエンス学部」と名付けられた理由は?
竹村 データ量がともかく増え、また質も多様化していますから、それを解析して付加価値を提供できる思考力やスキルを学んでもらえるよう、従来「統計学」といって思い起こす学問範囲より広くイメージしてもらいたい、という狙いからです。
−−−−統計学の基礎を身につけたうえで、各分野に応用していくとなると、さまざまな業界について学び、コミュニケーションする力も求められます。
竹村 その点は、企業や自治体にご協力いただいて、学部生のころからインターン制度を充実させて経験を積めるようにしたり、寄付講座を積極的に設けていく予定です。また、貯まったデータをどう解析して活用したらよいか困っているといった企業があれば、共同研究もどんどん進めていきたいと考えています。面白い結果が出たら、その依頼元企業に還元するのはもちろん、新たな発見については学会で発表したり、授業のケーススタディとして役立てるといった、単に一方的なコンサルティングではなく、社会に貢献する形で三方得する関係を結べれば理想的です。学部の4年間で統計とコンピュータ解析に強みをもてるようになったら、卒業して就職する学生もいるでしょうし、大学院も設置しますので世界と競争できる研究者も育てていきます。
−−−とかく統計というと従来は「ちょっと先生、相談なんですが…」と菓子折ひとつもって知恵だけ借りていく企業も多いと聞き及びますが、おっしゃるような協力が実現すればまさに企業と大学のウィン=ウィン関係ですね。
竹村 そうですね。知的財産を巡る契約などクリアすべき問題はありますが、進めていきたいです。滋賀大学のデータサイエンス学部は実際的なデータ解析で社会と連携していくことを目指しています。
−−−ちなみに、ご自身が統計学を学ぼうと思われたきっかけというのは?
竹村 東京大学の経済学部に入ったときは、特に統計をやろうと決めていたわけではなかったのですが、数理統計学の竹内啓ゼミで竹内先生の薫陶を受けた影響は大きいです。あとは私の志向に合っていたと申しますか…マルクス経済学も近代経済学も、人間のとらえ方といった主観的な要素が入りこむのに対し、データに基づいて判断し、数量的に現実のある側面をあらわす統計のほうがずっと合理的で、気が楽だったというのもあります(笑)。統計も純粋数学と比べれば考え方や思想が反映される部分はあるのですが、逆に純粋数学だとその論理がこれまた一種抽象的なんですね。
−−−統計学のもつ合理性が性に合ったし、意義を感じられたわけですね。
たとえば、ある政策を決めるうえで理念はあっても、施行してみると実際に人々がどう行動するかは分かりません。だから何が正しいのか判断する際、「こうあるべき」という主観ではなく、「こういう条件下ではこうなる」という可能な範囲の事実と推論を数量的かつ客観的にみて決めたほうが合理的だし、うまくいく確率が高いと思うんです。そういう意思決定の前提だけでなく、時には新たな提案なども根拠をもって提示できる点が統計学の面白さではないでしょうか。
統計の計算過程がブラックボックス化しているという批判も一部にはありますが、それはコミュニケーションによって克服できると思いますし、“べき論”よりはずっと合理的判断につながる。そういう文化がもっと根づけば日本企業も一層強くなれると信じています。