産業がめまぐるしく変化する中で
汎用的な統計学を学ぶ意義が高まっている
−−−−日本企業では、データ・サイエンティストといえる専門家が圧倒的に足りないのを補充すると同時に、データやその解析について価値を認め、それを経営に取り入れようというトップの姿勢も必要になりそうですね。
竹村 日本の企業では全体的に、データを経営に活かすという意識があまり浸透していないように感じます。統計を担う人はあくまで下請けの“計算する人”で、大事なことは文系の偉い人が決める、という文化が根強いですよね(笑)。データの解析や解釈がひとつの専門性として認められていない証左です。
これには恐らく文化的な背景もあって、日本のように非常に同質的な社会ではなんとなく雰囲気で解り合うというか、企業でも意思決定する際に数字より人脈や人間関係といった別の要素が重視されがちです。でも、アメリカのように多様性をはらんだ社会では、目に見える結果や合理性−−−つまり「数字」が重視されます。もちろん、スティーブ・ジョブズの感覚的とも思える決断で大躍進したアップルのような事例も中にはありますが、アメリカは文化として数字を重視する傾向が強いと思います。
−−−−日本の統計学が従来、工学部や経済学部の一部という位置づけで、最初から各専門分野に分かれて学ぶデメリットについても、竹村先生は過去に指摘されています。総合的に統計を学ぶとどのようなメリットがあるのでしょうか。
竹村 日本の統計学はずっと応用志向が強かったので、仰るように、工学や経済学、心理学といったそれぞれの分野で個別に貢献してきました。非常に実質的だし、「専門学部がない」ことのメリットがあったと言えます。
しかし、このスタイルだとどうしても最初から各分野にとらわれた考え方になりやすい。だから、最初は特定分野の応用から入るのではなく、もっと汎用的に幅広く統計学を学んでおいたほうが後で応用が効きやすいと思います。
一方、産業にも流行り廃りがありますから、同じ機械工学でも人気の就職先は時代によって電気会社だったり自動車会社だったり、昔であれば造船会社だったり…と変化しますよね。ですから、産業が激しく変化するなかでも分野にとらわれない基礎的な統計思考を強化しておいたほうがよいと思うのです。
アメリカでは統計の専門性があると、それを武器にさまざまな業種で引っ張りだこです。日本でも転職率は高まってきましたし、若い人にはさまざまな分野で通用する統計の専門家を目指してもらいたいと考えています。
−−−−まさに、それを実現するのが、2017年4月に滋賀大学に開設予定の「データサイエンス学部」ですね。
竹村 そうです。いま文部科学省への申請準備を進めているところですが、さまざまに応用できる統計学の基礎を先に勉強して、その後で各分野のデータを分析する、という順で学んでもらう予定です。特に、企業や自治体の生のデータを教材として使うことで、ルールとして計算式を覚えて問題を解くだけにとどまらず、数量的に物事を考える力を養ってもらいたいと考えています。もちろん基礎的な数学的素養は必要ですけれども、それを応用して価値ある提案につなげられるような、数量的なリテラシーと申しますか、統計的なリテラシーをつけてもらいます。