「パナソニックが提示した、採算度外視の破格の条件には、とても太刀打ちできなかった」。ある東芝幹部はため息をつく。

 この3月、東京都墨田区で建設中の「東京スカイツリー」のライトアップ用LED(発光ダイオード)照明を、パナソニック電工が受注した。受注額は約3億円と見られる。落札に当たっては、老舗照明メーカーの意地をかけて、パナソニックと東芝が競り合った。

 スカイツリーだけではない。来年に開通する東京港臨海大橋をはじめとして、「東京都内だけでも、数千万円以上の大型案件が20~30件ある」(井野川浩・パナソニック電工電材商品営業企画部部長)という。景観照明、ショッピングモール照明など、大型受注を見込める法人需要をめぐり、激しい受注合戦が繰り広げられている。

 LED照明は、一般的な蛍光灯に比べて、長寿命で電気料金が低く抑えられる。メーカー各社は、こうした特徴を生かして、家庭用市場のみならず、オフィス、商業施設、屋外照明など法人市場を掘り起こす構えだ。

 後押ししたのは、昨年4月に施行された改正省エネ法である。対象外だった小売り・外食チェーンについても、国へのエネルギー使用量の報告が義務づけられたため、省エネ効果の高いLED照明が注目された。照明メーカー各社は、店舗・商業施設への導入を手始めに、オフィス、工場、そして、住宅向けの需要を囲い込む方針だ。スカイツリーなどの大型案件は、“宣伝塔”の意味合いが強い。パナソニックは、その実績をはずみに、他の販売チャネルへの波及を狙っている。

 テクノ・システム・リサーチによれば、LED照明の世界市場は2008年の1370億円から20年の1・3兆円へと拡大する見込みだ。有望市場を睨み、数え切れぬほどの国内外メーカーが新規参入を果たした。台風の目は、08年9月に参入したシャープだ。まずは、LED電球発売で家庭用市場における足場を築き、法人市場にも殴り込みをかける。

 これまで、照明市場は“無風”だった。既存チャネルにおいて、寿命を迎えた旧来型照明器具を置き換えるだけの安定した市場が存在した。だからこそ、国内だけで専業を含む20社もの照明メーカーが生き残ることができ、パナソニック・東芝の両雄が、高い収益性を維持できた。だが、LEDという新素材が現れたことで、競争環境が激変した。「LED照明市場が拡大する速度以上に、新規参入者が相次いだため、受注価格の下落が進んだ」(太田健吾・テクノ・システム・リサーチ研究員)。老舗照明メーカーは、価格攻勢をかける新規参入者にシェアを奪われるリスクさえある。

 もちろん、両雄の危機感は強い。なかでも2位メーカーの東芝は、「守りに入ることはない。LED照明を武器に首位を狙う」(佐藤光治・東芝ライテックLED事業部部長)と譲らない。照明戦線が激しい火花を散らしている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

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