前回の連載では、論理とは「筋道」であると同時に「言葉(境界線)」であるという点を確認した。
クリエイティブな発想や競争力のあるアイデアを出したければ、じつはこの「論理思考」の力を磨くことが最短ルートなのだが、なぜそう言えるのかを最新刊『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか』では徹底的に明らかにしたつもりだ。
この理由をすべて解説するわけにはいかないので、今回の連載では「論理的に考えることこそが、優れた発想には欠かせない」ということを、「論理思考ではないもの」にスポットを当てながら解説することにしてみる。
論理思考を含めて「4つの発想ルート」が存在する
まず、論理思考とは、言葉を部品としながら筋道を構築していく発想だった。
それでは逆に、「言葉によらずに筋道をつけていく発想」とは何だろうか?
それは「イメージによる筋道」である。
イメージと聞くと、映像のことを思い浮かべる人も多いが、実際には視覚のイメージ以外にも、聴覚、味覚、触覚、嗅覚のイメージがある。
たとえば、パティシエが新しいケーキをつくるときには、食感だとか風味だとか甘みの具合だとかについて、一定のイメージを持っているだろう。それは決して言葉によるものではないが、必ずしも視覚的イメージ(映像)だけだとは限らない。
とはいえ、人間の場合、大半のイメージは映像を介するものがほとんどなので、「イメージ=映像」だと言ってしまっても、ほぼ問題ないだろう。
こうした「イメージ(≒映像)によって筋道をつけていく発想もあり得る。
◎ 言葉 ― 物事を分解する(境界線)
◎ イメージ ― 物事を総体的にとらえる
また別の側面からも見てみよう。
何らかの発想をするとき、僕たちの発想は筋道をたどるしかないのだろうか?
そんなことはない。思いつきとかひらめきとか直感と呼ばれるものは、そうした線的なプロセスを経ないからである。いきなり答えに飛躍するような発想の仕方もたしかに存在する。
◎ 筋道 ― 「A→B→C→D」というように段階を経る線的な発想
◎ 直感 ― 「D」というようにいきなり飛躍する点的な発想
となると、僕たちの発想には形式的には下図のように4つのかたちがあり得るということになる。
直感のみによる発想が可能な人のことを僕たちは「天才」と呼んでいる。天才は「発想を広げるうえでの障害(バカの壁)」が入らないために発想の幅が広く、言葉による分解ステップ(筋道)がなくても、アイデアまで一気に直感でジャンプできてしまう。
しかし、大抵の人にはそれができない。ジャンプした気になっているだけで、だいたい着地を踏み外している。
普通の人はやはり筋道をたどりながら、思考を広げていくしかないのである。
「イメージ思考」に付随するボトルネック
天才ではない僕たちが、直感よりも筋道に頼ったほうがいいのはうなずけるにしろ、イメージではなく言葉を使ったほうがいい理由はどこにあるだろうか?
もしもイメージによる思考力がずば抜けている人であれば、言葉など使う必要はないのかもしれない。
しかし多くの人にとっては、やはり言葉を使うほうが圧倒的に有利である。
まずアウトプットの問題がある。
イメージによって思考するということは、たとえば図や絵や動画だけでものを考えるということだが、そうなると当然のことながら、それを他人に伝えるときにも、そうしたイメージを使うことになる。しかし、イメージだけで伝達できることには、やはり限界があるように思う。
たとえば、ある企業の事業戦略を言葉を使わずに、イメージだけで伝えるのは至難の技だろう。絵や図だけで企画書をつくることを想像してみてほしい。かなり難しいはずだ。
スポーツ選手であればアウトプットはプレーでいいし、料理人であればおいしい料理をつくればいい。しかし、一般的なビジネスパーソンに求められる最終的なアウトプットは、やはり言葉なのである。
加えて、イメージによる思考は、究極的にはその人のイメージ力に依存する。
「図で考える力を養おう」というようなメッセージの書籍は巷に溢れているが、端的に言えば、絵が下手な人というのは、イメージによる思考に向かない人である。
ほとんどの人はやはり言葉で考えたほうが、他人への伝達という意味でも、個人としての思考という意味でも、うまくいくことが多い。
イチローが「言葉×筋道」なら、長嶋は「イメージ×直感」
野球の世界では「名選手必ずしも名監督ならず」と言われることが多い。これは、プレーヤーとしては自分のプレーをイメージでとらえていればよかったものが、いざ監督となったときには、それを言葉で筋道をつけて説明する能力が求められるからだろう。
たとえば、メジャーリーグで活躍するイチロー選手は、北野武(ビートたけし)さんとの対談で「僕は天才じゃない」と断言している。まわりの人からすれば驚くべき発言だが、イチロー選手はこんなふうに理由を語っている。
「今年だけで僕は242本安打を打ちました。ところが僕は、その242本に関してすべて、なぜ打てたかを説明できるんですよ。本当の天才である長嶋茂雄さんとはその点が違います」
彼もまた、目の前のイメージを言葉に置き換えながら、きわめて論理的に野球というスポーツをやっているプレイヤーだと言えるだろう。
これと対照的なのが、イチローが「本当の天才」と呼んだ長嶋茂雄さんである。選手にバッティングの指導をするときに、「ボールがビューと来たらバーンと打てばいい」と語ったという彼のエピソードは比較的よく知られている。この人は言葉よりもイメージの中で野球を続けていた典型的な選手だろう。
長嶋さんには「シュートで80行」という逸話も残っている。シュートという変化球を苦手としていた彼は、「今日のホームラン、あれはどんな球種でしたか?」と取材されると、必ず「シュートです」と答えていたという。
ひょっとしたら長嶋さんなりの狙いがあったのかもしれないが、彼がそれ以上は何も筋道をつけて説明してくれないので、スポーツ記者たちは80行の記事を書くのにも非常に苦労したということだ。
ここからは、長嶋さんが「筋道」よりも「直感」の人であることがわかる。
ここで重要なのは、イチロー選手のような超一流選手ですら、言葉を使って考えているということだ。
イメージに頼ることを否定するつもりもないし、以前の連載で書いたように、最後には直感が必要になる。
参考:【第9回】
結局「ハト」はどこに消えた?
答えが欲しけりゃ“論理×直感”だ!!
しかし、ビジネスパーソンであれば、やはり言葉で考えることを主軸に据えたほうがアドバンテージは大きい。やはり僕たちは、論理思考で発想の質を高めていくべきなのである。
(第14回に続く)