VW不正問題が突き付けた課題
環境規制に業界はどう対応すべきか

VWの不正問題は、世界的な波紋を広げた。今後自動車各社は、環境規制の強化にどう対応するか。次世代エコカーの本命と言われるFCV(燃料電池車)の可能性を考察しよう Photo:TOYOTA

 独VW(フォルクスワーゲン)によるディーゼル車排ガス試験での不正問題が自動車業界に激震をもたらし、その成り行きが世界的な問題にまで拡がっている。

 VW問題はVW固有の不祥事であると考えたいが、ある意味で自動車業界全体に大きな課題を突き付けた。環境規制強化に対し、自動車業界が現実的な市場対応と先行開発技術投入の間に横たわるギャップをどう埋めていくか、ということだ。それは、環境と安全の二大テーマを掲げる同産業における、環境とエネルギーの関連性にも結びつく。

 20世紀は化石燃料の大量消費時代だったが、そこではガソリン車・ディーゼル車は主役だった。21世紀は石油代替燃料への転換が進み、水素社会化に伴い燃料電池車(FCV)へと主役が交替して行くことが期待されている。パワートレーンが多様化しているなか、次世代のエコカーであるFCVがそこから抜け出すのはいつか。今回はそれを考察したい。

 先日筆者は、日本自動車会議所主催で開催された研修セミナー「水素をめぐる現状と将来展望~自動車・インフラ・水素社会について」のパネルディスカッションで、コーディネーターを務めた。

 同セミナーは、トヨタ自動車の河合大洋・技術統括部主査が「FCVの開発と初期市場の創出」、岩谷産業の宮崎淳・常務執行役員水素エネルギー部長兼中央研究所副所長が「水素・インフラに関する現状と将来の展望~イワタニの水素インフラ整備の取組み~」というテーマで講演した。また、両講師と筆者による「来たるべき水素社会の展望」というパネルディスカッションも行った。

 燃料電池車(FCV)と水素社会――。言うまでもなくFCVとは、燃料電池で(水素と酸素の化学反応によって)つくり出す電気を使って、モーターを回して走る自動車である。つまり、基本的には電気自動車(電動車)である。火力発電所などで生まれた一次電気を使い、電池とバッテリーだけでモーターを回して走るのが電気自動車(EV)だ。現状ではEVに航続距離の短さと長い充電時間という制約があるのに対し、FCVは走行時に水しか排出せず、航続距離と水素充填時間も内燃機関車と遜色がない。そこが、「FCVはサスティナブルなモビリティ社会に貢献する究極のエコカーとして高いポテンシャルがある」(加藤光久・トヨタ副社長)という見方に繋がる。

 そもそも水素社会実現への意義とは何だろうか。それは石油への依存度を軽減したエネルギー・セキュリティ(安全)の向上にある。化石燃料の枯渇が叫ばれた時期もあったが、最近のシェールオイル革命や現実的な石油埋蔵量の査定が進み、枯渇は少なくとも2030年代以降という認識へ変化している。