自分の気持ちをごまかさず、
モヤモヤとがっぷり向き合う

安藤 なるほどなー。20代のモヤモヤ期を経て、森川さんは、そんなご自分の思いに気づかれたってことでしょうか?

森川 そういうことなんでしょうね。きっと安藤さんにも、そういう時期があったんじゃないですか?

【森川亮×安藤美冬 特別対談】(上)<br />「このままでいい?」20代のモヤモヤが自分を作る安藤美冬(あんどう・みふゆ)フリーランサー、コラムニスト。コラム執筆、大学講師、商品企画、コメンテーターなど様々な仕事を手がける株式会社スプリー代表。講談社ミスiD2016審査員。大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2015オフィシャルサポーター。DRESS働き方担当相。オズトリップ、TABI LABO連載中。著書に『冒険に出よう』『20代のうちにやりたいこと手帳』(いずれもディスカヴァー)など。

安藤 モヤモヤ期、ありましたねえ。『冒険に出よう』にも書いたことなんですが、私の場合、営業志望で大手出版社に入社したくせに、いざ広告部に配属されると仕事がまったくうまくいかなくて、日々モヤモヤを抱えていました。そのとき、モヤモヤの向こう側にキラキラした世界が見えたんです(笑)。「編集」の世界です。それで、「あっちに逃げたら輝けるはず!」とファッション誌専門の会社の編集職を受けてみたのですが……。

森川 結果はどうでしたか?

安藤 最初はうまくいっていたんです。だけど、最終面接でハプニングが起きました。「あとは意思確認だけ」と聞いていたのに、指定された日時に会社に行ってみると、編集長も副編集長も不在だと言われて。「いや、アポイントをいただいてます」と言っても、「ふたりとも、もう帰りました」の一点張り。

森川 どういうことですか?

安藤 それが、翌週わかったことには、じつはおふたりは会議室で待っていてくださっていたんです。取り次いだ人が勘違いしていただけで……。

森川 それは、ひどい話ですね(笑)。

安藤 いや、でも、私、そのときこう思ったんです。「神様は何が言いたいんだろう?」と。神様っていうのは、イコール私の気持ちなんですけどね。このタイミングでこんなことが起きるのは、何かのサインだと。そして、「ここで逃げ出しても、成長できない」「こんな無様な姿を残して去るのか?」と思い直して、逃げるのをやめたんです。

森川 なるほど。それでモヤモヤ期は脱した?

安藤 とりあえず、ピリオドは打てました。「とにかく目の前の仕事に全力を尽くす」「どんなに小さい仕事でも一生懸命やろう」と気持ちを切り替えたんです。これが、よかったんじゃないかと思っています。だって、あのとき、ほかの会社に逃げていたら、一時的にはモヤモヤから脱せたかもしれないけれど、また同じことの繰り返しをしたような気がするから。

森川 そうですよね。

安藤 私、人間が変わるときって、モヤモヤに出会ったときだと思うんです。晴れない気持ちにケリをつけようともがくなかで、変わるきっかけをつかむことができるんじゃないか、と。辞表を出すにしろ、とどまる決断をするにしろ、ケリをつけるためには自分の内面にもぐって「どうすべきか」を真剣に考えるしかない。自分に問いかけるって面倒くさい作業ですけど、モヤモヤとどれだけ誠実に向き合うかが大切だと思うんです。

森川 同感です。ところが、人間は弱いから、ついつい「臭いものに蓋」をしちゃうんですよね。モヤモヤを見なかったことにしたり、「気の迷い」と自分に言い聞かせたり、友達と遊んで気を紛らわせたり……。安藤さんは、どうして飲みに行ってウサを晴らしたりしなかったんですか?

安藤 ええっと、飲めないクチなので、ウサを晴らせなかったんです(笑)。

森川 なるほど(笑)。

安藤 あと、内向的だし人見知りだったので……。

森川 外で発散するチャンスがなかったんですね。だからこそ、自分と向き合えたのかもしれません。もしも安藤さんが酒好きで飲み会ばかりやっていたら、せっかくのモヤモヤがうやむやになっていたかもしれない。そう思うと、怖いですよね。

安藤 はい。もともと絵を描いたり本を読んだり詩を書いたりと、とにかく内側にこもる時間が好きでした。だから自然と、自分とがっぷり四つに向き合えたんだと思います。

森川 もちろん、ときには友達とウサを晴らすのもいいと思いますが、それだけだと自分の本当の気持ちをごまかすだけで終わってしまう。苦しいかもしれないけれど、やっぱり、自分とじっくり向き合うことが大事なんでしょうね。それさえできれば、若いころにモヤモヤする時期があるのは、むしろ、自分らしく生きるきっかけをつかむチャンスだと思います。

(続く)