かつてはMBAに「億」単位の価値があった
いまでこそ海外旅行というのはかなり身近になったものの、当時は海外に行くのにもかなりのお金がかかった。JAL1便、つまり羽田―サンフランシスコ間を結ぶ日本初の国際便が開通したのが1953年。これがいまの貨幣価値にすると、片道で800~900万円くらいだったという。つまり、アメリカに行ってちょっとした情報をとってくるだけで2000万円くらいのお金がかかったのだ。
だから、ビジネススクールで教えられるような知識にも、ものすごい価値があった。交通費だけで2000万円弱かかるのだから、長期滞在費や授業料も考えれば「億」に達するようなお金が必要だったということになる。だからこそ、往年のビジネススクール出身者の多くは「お金持ち」だったわけである。
たとえば、ハーバード大ビジネススクールの卒業生として有名な方に、日清製粉の社長だった正田修さんがいる。彼は日清製粉創業者の孫で、皇后・美智子様の弟さんだ。
また、ペンシルベニア大ウォートン・スクールの出身者としては、富士ゼロックスの中興の祖と呼ばれる小林陽太郎さんが知られているが、彼ももともと富士写真フイルム(現・富士フイルムホールディングス)の社長のご子息である。
それがいまはどうだろうか?
書店に行けばMBA関連の書籍は膨大にあるし、インターネットで検索すれば、誰でも無料でかなりの情報にアクセスできる。もちろん有料の情報もあるし、実際にビジネススクールに通えば授業料も必要になるが、1億円よりはずっと安いのは間違いない。もはやそれらの知識は、かつてのように競争力の源泉にはなり得ない。
こういう環境になると、確実に有利になる人がいる。
もちろんそれは「速く確実に考える力」を持つ人たちである。
そしていま、そういう人たちが「知の競争」のフィールドに躍り出て、従来のエリートたちをごぼう抜きにするような事態――知的下剋上が起こりつつある。
そういう状況の中で、あなたならどちらの戦場を選ぶだろうか?