たとえば、循環器病学の権威である呉建(くれ・けん)博士。
彼が東京帝国大学に在学していた当時、心臓というのはあまりにも未解明の部分が多く、研究対象としては人気がなかったという。しかし、師から「心臓の研究をするように」と言い渡されてしまった彼は、自らの思考力を駆使して知のフロンティアを切り開かざるを得なかった。
だからこそ後年、彼はこの分野の権威として知られるようになったのである。
このケースでもわかるとおり、普遍的理論がないフィールド、あるいは、普遍的理論がまだ確立されていない戦場では「考える」が有効である。というよりも、学ぶべき対象がほとんどないので、ただ考えた者が勝利するのである。
その意味では、精神医学や脳科学というのも、より思考力が要求される領域だろう。ほかの医学領域に比べて確固たる理論が少ないため、より説得力のある結論仮説を構築できる人が優位に立てる戦場である。
だから、こう言ってはあれだが、一般的な意味ではエリートとは呼べない人、ちょっと素性の怪しい人というのも、この分野では大いに活躍しているケースが多い。
近大マグロも「優れたフィールド選び」の産物である
医学以外の世界で言えば、「近大マグロ」もそうだ。その背後にとてつもない努力があったことを否定するわけではないが、同時にフィールド選びという点でも、近畿大学水産研究所がマグロの養殖に目をつけたのは見事と言うほかない。
近大マグロがイノベーションを起こし得たのは、確立された理論がまだ存在しない領域を選んだことも大きいのではないか。
そういう戦場ほど、思考力による勝負に向いているし、そこで勝利したときにはより大きなインパクトを引き起こせるはずだ。
その意味で、やはりビジネスには思考力が生きる戦場が多い。ハーバード大ビジネススクールには講義がなくて、ケーススタディが中心であるというのもそうした理由からだろう。
※参考:
【第23回】高学歴ほど「ルーティンワーク」にハマる
『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか』(本体1400円+税)
ビジネスについては決まった理論など、ほとんど存在しない。それらしいものを学ぶことまでは否定しないが、あとは考えて考えて考え抜けばいいのである。
たとえば営業マンであれば、商品についての最低限の知識は学ばなければならないにしても、営業活動そのものについては何か決まったフレームワークはほとんどない。つまり、セールスなどは考えた者勝ちの世界の典型である。
リーダーシップについても、関連書籍はたくさん刊行されているし、いろいろな理論を語る人はいる。しかし、いくらそれを学んでも、相手にするのは生身の人間である以上、結局のところ、成果を上げるリーダーとは、「考えている」リーダーなのではないだろうか。
あなたの前に、何か決まったルールや理論が存在しない戦場が広がっているのであれば、なおさらあなたは思考力を磨き、そこで存分に戦うべきだろう。