働くことに対する動機付け、それも「働けるかもしれない」「働いてみるために少し踏み出してみよう」という最初の一歩への動機付けは、育児に近いものなのかもしれない。もしかすると、生育・成長の過程で得られなかった大切なものや、得ていたけれども失ってしまった大切なものを、もう一度提供して掴みとってもらうことに近いのかもしれない。

「現場のケースワーカーは、みんな頑張っていると思います。でも、雇用が根本的に改善されないと、どうしようもないです。いろいろなハンデを背負っている生活保護の方々、正規雇用のレールから外れて生活保護を利用することになった方々が努力しても、正規雇用にはなかなか就けません。非正規雇用、派遣労働が精一杯です。すると、厚生年金に入れません。生活保護から何とか脱却できても、国民年金も払えなかったりします。将来は低年金高齢者になり、生活保護です。社会保障の時限爆弾のようなものです。雇用を改善しないと、そのうち爆発すると思います」

 とりあえず生活保護利用者の雇用状況を改善するには、どういう方法があるだろうか?

「あまり多くは思い浮かばないのですが……まず、公共が生活保護の方々を雇用するようにする必要があるでしょうね。民間では雇用されにくい方々ですから。『中間的就労』のような形態は、最低賃金以下の労働を認めることになるので、雇用全体に悪影響を及ぼすことになると思います。また、ケースワーカーの増員も必要でしょう。都市部では1人あたり80世帯を受け持つよう定められていますが、実際には100世帯・110世帯になっていることが多いです。すると、保護費を毎月渡すだけで精一杯になってしまいます。その方がどういう方だか知らないと、たとえば難病の場合に病気の内容を知らないと、制度が変わったときに『手続きすれば利用できる制度ができました』とお知らせすることはできません。新しい手当の対象になったとき、申請をお願いして、その分だけ生活保護費を減額することもできません」

 しかし、「公務員を増やすべき」という主張が、今の日本で受け入れられるだろうか?

「無理でしょうね。2006年の「集中改革プラン」以後の約10年間、国から地方に、職員を減らせという圧力がかかりつづけています。すると、学校の給食室がなくなり、給食は民間委託されたりします。職員を減らすということは、公務のサービスを低下させることなんです」

 とはいえ「公務員を減らし、給料をカットする」と「生活保護費を減らす」は、選挙のたびに繰り返される人気の公約だ。日本人が多数決でそれを選ぶというのなら、私が一個人としてできることは何もないかもしれない。

「でも、ここで、考えてほしいんです。生活保護費の削減は、確実に地域経済に打撃を与えます。安倍首相は『給料を上げる』と言い続けていますけど、実際には官も民も、賃金は下がり続けています。一番貧しい人が、一番しんどいことになるだけです。それで地域経済がうまくいくわけはありません」

 日本人大多数が、「それがよい」と考えているわけではないことを、私は祈りたい。

 次回は、最も貧しく不利な人々に最初に「住まい」を提供する「ハウジング・ファースト」の試みが、米国・フランスでどのような効果を上げているかについてレポートする予定だ。