これまでの米国のシリア空爆は
「警備員が裏口を開けておいた」ような形

 今回の攻撃はパリでの同時多発テロ事件の2日後の11月15日に行われ、シリア東部のアブカマル(イラク国境の西約10km)付近でタンクローリー116台を破壊、さらに21日から22日にかけてシリア北東部ハサカ(トルコ国境の南約100km)などで283台を破壊した。

 有志連合司令部の報道官S・H・ウォーレン米陸軍大佐は「ISの収入の半分以上が石油の売り上げで、1日平均100万ドル(約1.2億円)だ。一連の航空攻撃でISに大打撃を与えた」と戦果を誇った。破壊した約400台以外に、残ったタンクローリーが600台ほどあるとしても、空から丸見えの砂漠の道路をタンクローリーで走ったり、石油積み込みを待って駐車場に並ぶのは今後は極めて危険になる。密輸トラックの運転手は「命あっての物種」で、ISによる石油密売が激減するのは確かだろう。

 だが、米軍がその攻撃の効果を強調すればするほど「なぜこれまでそれをやらなかったのか」との疑問が生じる。

 私は昨年9月に米軍などがシリア領内のIS拠点の航空攻撃を始めた際、「タンクローリーを壊すのは容易で、それをすればISの資金源の大半を断てる。他のゲリラと異なり地元に深く根を下ろしていないISは衰弱する」と説いていた。誰が考えてもきわめて簡単で有効な戦術だから、米軍などがとっくにやっているはず、と思っていたが、今回がはじめて、と知って驚いた。まるで銀行の警備員が裏口を開けておいたような形だ。米国などが1年以上航空攻撃を続けても“イスラム国”が衰弱しなかったわけがやっとわかった。

 それをしなかった理由として米国防総省当局者は「民間人であるトラック運転手を死傷させるおそれがあったため」と説明し、「今回は事前にビラを撒いて警告した」とも言うが、ISの“首都”ラッカなどの攻撃でも住民に多くの死傷者が出ているし、戦時に石油を運ぶトラックの運転手は、潜水艦に狙われやすいタンカーなど商船の船員に似ており、都市の住民のような純粋な民間人とは異なる。

 米国などがタンクローリー攻撃を控えた理由としては、

(1)以前からシリアのIS拠点攻撃を行っていた米国、豪州、カナダおよび親米派のイスラム教スンニ派諸国(トルコ、ヨルダン、サウジアラビアなど)は「アサド政権打倒」を唱えていたから、アルカイダに属する「ヌスラ戦線」とならぶシリアの二大反政府勢力の主体であるISの命脈を本気で断とうとはせず、目こぼしをしていたのか。

(2)ISの石油密売先は米財務省が言うようにもっぱらトルコであり、トルコの闇商人のタンクローリーが石油買い付けにシリアに通っていたならば、それを攻撃し、トルコ人運転手を死傷させれば、シリア政府に対する反乱の支援でのトルコの協力を得にくくなる。米国は反政府部隊の訓練や兵器の引き渡しなどをトルコで行っていた。また昨年9月から今年1月まで、トルコ国境に近いシリアのコバニの町でクルド人住民とIS部隊が争奪戦を展開していた際には、イラクのクルド自治区から救援のクルド兵をトルコ経由でコバニに送ろうとし、クルド人と対立するトルコを説得して通過を認めてもらったこともある。このため、トルコとの対立を招くようなタンクローリー攻撃はためらわざるをえなかったのか、

 の2点が考えられる。おそらく(2)の方が主な要因ではなかったか。