この記憶力のグランドマスターとは何かと言いますと、年に一度、12月に開催される世界記憶力選手権に出場し、その中の種目で次の3つの条件をクリアした者に与えられる称号です。

 その条件とは、

1、 ばらばらに切った1組のトランプの順番を2分以内に記憶できること。
2、 ばらばらに切ったトランプの順番を1時間で10組以上記憶できること。
3、 ランダムに並んだ数字を1時間で1000桁以上記憶できること。

 2013年12月イギリスのロンドンで開催された世界記憶力選手権に出場した私は、そこでついに念願の記憶力のグランドマスターを手にすることができたのです。

カンガルーの顔と名前だって覚えられる

 記憶の世界で少しずつ知られるようになった私はテレビ出演のお話をいただくようになりました。

 “記憶力の人”として呼ばれていますので、出演時には記憶のパフォーマンスがほぼセットになっています。よくあるパターンとして、人の顔と名前を覚える、買い物リストを記憶してメモなしで買い物する、そしてバラバラに切ったトランプの順番を覚える、などがあるのですが、その中で、いくら何でもそりゃ無茶だろうという企画がありました。それが柵の中に集められたカンガルー30頭を、それぞれにつけられている名前(「さくら」とか「ダンゴ」とか)を一度聞いただけで記憶するというものでした。撮影に至るまでいろいろあったのですが、自分を超集中モード、強制フロー状態に追い込み、結果的にそれもなんとか成功することができました。

いくつからでも記憶力を諦めない

 以前は脳というものは7歳ぐらいを過ぎると徐々に柔軟性を失って変化しなくなると思われていました。しかし現在では脳科学の発達によって脳には可塑性(必要に応じて変化できる性質)があり、いくつからでも神経細胞を増やすことができ、神経回路が発達することがわかってきています。

 例えば、ロンドンの街中を走っているブラックキャブと呼ばれるタクシーがあるのをご存じでしょうか。ロンドンの道はとても複雑で入り組んでおり、この職業をこなすためには膨大な情報を記憶しなければならないのですが、運転手を続けていくうちに彼らの脳が変化していくというのです。脳のなかで記憶を司っている部位の「海馬」の神経細胞が増大し、海馬全体が大きくなることがロンドン大学の研究からわかっています。タクシーの運転手なので、もちろん大人になってからの脳の変化です。