この20年で
労働者の所得は4%減っている
人よりも速く、安く、正確に膨大な法律文献を調べられるアルゴリズムもあり、アメリカの訴訟手続きでは弁護士に代わりEディスカバリー(電子証拠開示)の導入が進んでいる。医療用のX線画像も、放射線技師よりコンピュータのほうが正確に読み取ることができる。
グーグル翻訳の性能は、莫大なデータマイニングと高度なアルゴリズムによって、日々改善されている。こうしたソフトウェアの飛躍的進歩によって、多くの雇用、場合によっては職種がまるまる失われつつある。だとすれば、今後の雇用は増えるよりも減るペースのほうが速いのか。
確実なことは言えないが、いつもは楽観的な見方をするエコノミストも、この点では懸念を示している。最近のOECDの報告書は、いくつかの不快な事実を明らかにしている。過去20年間に世界のGDPにおける労働者の所得は4%減ったが、その約80%が新しいテクノロジーのせいだというのだ。一方、新しいテクノロジー分野で働くひと握りの高熟練労働者(と企業経営者・所有者)の所得は増えている。
私は破壊のなかからまったく新しい職種が生まれると考える楽観派だが、それが遅れていることと、世界じゅうで格差が拡大していることに不安を感じている。第1次産業革命は、とてつもなく広い範囲で豊かさをもたらすプロセスに火をつける一方で、無数の手工業者を貧困に陥れ、19世紀のイギリスの階級を固定した。
ディケンズは多くの小説で、中間層が拡大する一方で、工場労働者などの肉体労働者が不安定な暮らしを強いられたことを描いた。短中期的には状況は見えざる手によって改善されるという楽観論に、歴史は警告を発している。
新しいテクノロジーから疎外された人々は、新しいスキルを身につける機会を必ずしも持たない。アメリカをはじめとする国々は、成功する見込みのない底辺層を生み出すおそれがある。
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