ラファエロが西洋古典絵画の代名詞

山田 たとえば、2014年に森アーツセンターギャラリーで『ラファエル前派展』をやってましたが……。

こやま あ、私、行ったんですよー!
「ラファエロ勉強しよう」と思って『ラファエル前派展』に行ったら、ラファエロじゃなくてラファエロを否定する人たちの集まりだったという……(笑)。衝撃的でした。

山田 そうなのよ。だけど、ラファエロのどこをどう否定しているか、いまいちピンとこなかったでしょう?

こやま はい。よくわからなかったです。

山田 ラファエル前派、Pre-Raphaelite Brotherhoodっていうのは、要するに「ラファエロの前に帰ろう」っていう運動なわけよ。何を否定しているかというと、西洋絵画の古典を否定してるわけ。
つまり「古典=ラファエロ」なの。

こやま なるほど。「古典の前に帰ろう」ってことなんですね!

山田 そこにはふたつの意味があって、

ひとつはルネサンス以前の中世、まだ芸術家と職人の区別がなかった時代の素朴なアートを取り戻そう、という意味。芸術家という概念が生まれてくるのはルネサンス以降だからね。

もうひとつは、ラファエル前派が登場した19世紀の中頃に美術学校で教えていたラファエロをお手本とする古典絵画から脱却しよう、っていう意味もあった。

ラファエロ『小椅子の聖母』1514年頃 ピッティ美術館、フィレンツェ

こやま ラファエロが教科書
だったんですね。

山田 イギリスだとロイヤル・アカデミーというのがあって、ラファエル前派の人たちも最初はそういうところで古典絵画を学んでいたんだけど、「オレたち、もっと新しい絵を描きたい!」と。だから学校の教科書の否定という意味で、ラファエル前派と名乗ったんですよ。

こやま 新しい?
ラファエロの前の古い時代に帰ろうと言ってるわりには、新しいんですか?

山田 今の感覚では新しく見えないけど、
当時としてはそれが逆に新しかった。

こやま ムズカシイですねえ。

山田 その辺はラファエル前派の回があれば、そのときにちゃんと解説するから、ここではラファエロが西洋古典絵画の代名詞だったという事実だけ覚えておいて。ラファエロはそれくらいエライんだってことを。下手すりゃ今でも、西洋の油絵をやる人がまず勉強しなきゃいけないのはラファエロかも。そこはレオナルド・ダ・ヴィンチじゃないわけですよ。「レオナルド前派」じゃないわけです。