「私も3回ほど、自殺とか、当事者を殺して死ぬことを考えました。精神疾患の家族と暮らす将来を考えると、絶望したからです」

 シンと静まりかえる会議室で、精神疾患の弟を抱える60代の女性は、そう切実に訴え始めた。

 彼女の弟は、18歳のとき、就職試験で結果的に大手メーカーの内定をもらったが、「履歴書を何度も何度も書き直す行為は変だ」と高校教師に指摘されたのをきっかけに、父親が病院に連れて行ったところ、その場で入院させられたという。当時は「分裂病(統合失調症)」という診断だった。しかし、いま振り返れば、「おそらくアスペルガー症候群(発達障害)が原因。2次的に統合失調症が発症した」ことがわかってきた。

 弟は会社に勤務し、独立して暮らすことが夢だったという。しかし、病院では電気ショックを与えられ、畳の部屋でしか面会もできない。弟は、恨みを抱き続けたという。

 退院後、姉のアパートに同居し、弟は3年ほど働いたものの、病院の医師に「疲れた」といって、再び入院してしまった。

当事者を社会とつなぐことができない
「引きこもり」家族のもどかしさ

 彼女はその後、家族会に入り、似たような悩みを抱える人たちの相談日を設けたところ、10年、20年と、親子で家に「引きこもり」になったまま、社会のどこにもつながっていない人が数多く訪れるようになったという。

「精神疾患の大部分の人は、病院に入院しているか、家族の元で暮らしているかのどちらかです。作業所やデイケアに参加している人は少数で、職場で働けている人は、稀にしかいません。弟を扶養し続けてきた不肖の姉である私の実感は、当事者が社会の中で暮らしていけるようにする医療システムが、昔もいまもできていないということです」

 当事者を社会につなぐことができないもどかしい思い。現在、ケアホームに入居している弟の医療費と障害年金を合わせると、「1億円から2億円の金額を国家は支出している」と、彼女は指摘する。

「弟が働いていれば、自分で得た収入で暮らし、他人の税金や収入を使う側には、ならなかったはずです。海外では普通に、学校へ行き、仕事に就いている人が多いのです」

 心の危機の状況を改善しなければいけないと、精神保健医療関係者や、精神疾患の当事者、「引きこもり」親の会などの家族が有志で集まって開かれてきた「こころの健康政策構想会議」(座長・岡崎祐士・東京都立松沢病院院長)は、精神保健医療の改革を訴える提言をまとめて長妻昭厚生労働大臣に提出。6月15日、国会議員ら100人近くの国民を前に、冒頭の報告会を行った。