高齢者の地方への移住を後押しようと発足した「日本版CCRC構想有識者会議」が昨年12月11日に最終報告書をまとめた。同報告書は石破茂地方創生相に提出されたが、「日本版CCRC」を「生涯活躍のまち」と置き換え、想定移住者を中間報告書の「高齢者」から「50代以上」に引き下げた。要介護高齢者の「追い出し施策」という印象を打ち消そうとする思惑が働いたようだ。

 同会議に提出された資料の中で、「関連する取り組み事例」として金沢市の「シェア金沢」と栃木県那須町の「ゆいまーる那須」が明記された。いわば、霞が関お墨付きのモデルとして紹介した。共に、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を核にした新しい形の複合型集合住宅である。

 サ高住を推進する厚労省や国交省からも称えられ、全国の市町村や福祉事業者の視察が相次いでいる。従来の定型的な高齢者住宅の殻を破った斬新な発想であることは間違いないようだ。

 CCRCとは、Continuing Care Retirement Communityの略。健康な時に移り住んで、要介護状態になっても敷地内の別棟に移動してケアを受け続けられる高齢者向け施設。健常者のIndependent Living、介助者がいるAssisted Living、重度者向けのNursingHomeなどの棟が並ぶ。全米に2000ヵ所あると言われる。大学と連携して講座に学びに行くスタイルを取るタイプもある。

 米国では主に富裕層向けに広大な敷地内で完結させているが、日本版では既存の市街地内に設けて、働く場を作り地域貢献につながるスタイルを目指す。モデルとして挙げられている2ヵ所の実情は――。

居住の高齢者や障がい者に
「働く場所」も提供する

 金沢市の中心部から南東部に車で10分ほどの丘陵地。一帯は住宅地で、道路を挟んで金沢刑務所の前に広がるのがシェア金沢。国立若松病院の跡地である。ゆったりした敷地に、32戸のサ高住のほか障がい者居住棟、アトリエ付きの学生向け住宅、温泉付きのデイサービス、レストラン、売店などが並ぶ。

 緑の木々の中にこげ茶色のシックな建物が30ほど点在し、お洒落な別荘地風の雰囲気だ。農園ではアルパカが餌を食んでいる。産前産後ケアセンターや児童発達支援センター、ドッグランまで備わる。キッチンスタジオでは料理教室も開く。学生やミュージシャンがライブを催すことも。高齢者だけでなく子供や大学生が世代や障害を越えて暮らし、訪ねてくる。文字通り「シェア」ができる、即ち、分かち合う場所である。

テラス付きサ高住(シェア金沢)

 平屋と2階建てのサ高住は43m2前後とかなり広い。夫婦で住める1LDKでテラスも付いている。地元だけでなく首都圏や近畿圏からの移住者が半数を占める。

 介護が必要な入居者には、敷地内の訪問介護事業所からヘルパーが家事支援にやってくる。入居者の1ヵ月の費用は、家賃が8万5000円~9万5000円で共益費が2万~2万5000円、それに見守りや相談などの生活支援費が1万5000円。合計で12万~13万5000円となる。これに、食事を頼めば3万9000円加わる。

 居住する高齢者や障がい者に働く場を提供しているのがほかの施設と異なるところ。売店やレストランなどで応対する姿が目につく。「施設に依存しないで、なるべく自立した生活を目指してほしい」と言うのが法人の方針である。入居者たちが共同出資した「共同売店」はその好例だ。