ベストセラー『海馬』『進化しすぎた脳』の著者としても有名な東京大学薬学部教授、池谷裕二氏が「本書は勉学に関する脳科学本の決定版だ」と絶賛した書籍『脳が認める勉強法』に注目が集まっている。「勉強の場所を変えたほうが思い出しやすくなる」「試験までの期間に応じて学習間隔を変える」「分散学習は一夜漬けに勝る」など、興味深いトピックが並んでいるが、中でも注目したいのは、睡眠と学習に関する新たな真実。その内容とは?
何時間眠るか、よりもいつ眠るかが
あなたの人生を左右する
睡眠と脳の働き、とりわけ記憶力との関係は常にさまざまな新説が登場し、論争が起きやすい話題だ。人間の三大欲求の一つである睡眠……誰もが一度や二度は(いやそれ以上?)ふかふかのベッドの上で思う存分眠りたいと思ったことがあるだろう。しかし、試験前や山積みになった仕事の前では、その欲求に抗って、参考書や資料と格闘するはめになるのが世の常だ。
だからこそ「寝ないで勉強をするより睡眠を取ったほうが記憶力が高まる」「アイディアが浮かばないときは徹夜するより眠ったほうがいい」……などの情報に「そうか!やっぱり寝たほうがいいんだ」とそそくさとベッドへもぐりこみ、翌日大変なことになる、という経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。
前出の「記憶を定着させるためには睡眠を取ったほうがいい」というのはもはや誰もが知る常識なのに、なぜ、そんなことが起こるのか。その疑問に対する答えが、現在発売中の書籍『脳が認める勉強法』(ダイヤモンド社刊)に紹介されている。
その答えとは、記憶力を高めるためには、ただ単に睡眠を取るのではなく、「戦略的な睡眠」こそが重要だというものだ。「戦略的な睡眠」とは、つまり、「何を記憶したいかによって睡眠スタイルを変える」こと。『脳が認める勉強法』の著者、ベネディクト・キャリーによると、睡眠の周期は、
「段階1=スタート地点」
「レム睡眠=パターン認識を強化すると思われる段階」
「段階2=運動に関する学習にとってもっとも重要な段階」
「段階3および段階4=記憶が最も定着する期間。新しく学習した事実、名称、年号や日付、公式などを記憶する」
に分かれ、それぞれの段階ごとに記憶された情報の強化や選別が行われるのだという。
一般的な睡眠は、段階1から始まり、睡眠前半はレム睡眠から段階2、3、4の波を繰り返す「深い眠り」に入る。そして、目覚める前の後半は「浅い眠り」になり、レム睡眠と段階2の期間が最も長くなる。このパターンを戦略的に利用するなら、情報をたくさん覚えなくてはいけないテスト(外国語の単語、出来事の日付、化学構造などを問うテスト)が控えている場合は、普段どおりの時間にベッドに入って深い眠りを十分にとり、翌朝早く起きて簡単に復習するのがベストな勉強法ということになる。
逆に、運動能力や創造的思考(数学、作文など)の強化には目が覚める前の浅い眠りが重要。音楽の発表会やスポーツの競技、あるいは創造的思考を必要とするテストの準備が必要なら、この時間帯を効果的に使い、いつもよりも遅くまで起きて準備するのが最適なのだとか。
翌日にどんなテストが控えているか、何を覚えるべきかが明確な場合は、この「戦略的な睡眠」のとり方を利用するのがお勧めなのだ。