営業、説明会、発表会……。社外プレゼンはビジネスパーソン必須のスキル。ところが、多くの人が苦手ではないでしょうか?そこで、ソフトバンクで孫正義氏のプレゼン資料をつくった著者が、秘伝の「社外プレゼンの資料作成術」を全公開。本連載では、その「シンプル&ロジカル」かつ、相手の心を動かす、「超」実践的なノウハウをお伝えします!

イントロダクションで「心」をつかむ

 ここでは、社外プレゼン資料の全体像を解説します。
 下図をご覧ください。社外プレゼン資料は、「イントロダクション」「ボディ」「エンディング」「アペンディックス(別添資料)」の4つのパーツからなります。このパターンで、すべての社外プレゼンに対応することができます。これから、それぞれの役割をざっくりとお伝えしますので、まずは、資料全体のイメージをつかんでいただきたいと思います。

 まず、イントロダクション。このパーツは、「表紙」と「つかみスライド」で構成されます。プレゼンの導入部分に当たる非常に重要なパーツです。

 もちろん、1枚目は表紙です。これは、必ずつけるようにしてください。スライド中央部にプレゼンのタイトルを大きく表示することで、相手に「何をテーマにしたプレゼンか?」を一瞬で伝える役割があります。「何について話すのか?」が明確でないままプレゼンが始まれば、相手は「何の話だろう」といきなり戸惑ってしまいます。そして、プレゼンの趣旨を把握することに労力を費やしてしまうため、それ以降の内容が頭に入ってこなくなってしまうのです。ですから、端的にプレゼンのテーマを示す、短いタイトル(13文字以内)をつけるように心がけてください。

 次に「つかみスライド」。文字通り、聞き手の興味・関心をつかむ役割をもっています。扱うテーマは、聞き手が意識的・無意識的に解決・解消したいと思っている課題です。その課題をスライド化して、「そうそう、それが悩みなんだ……」「これは、自分にとって必要なプレゼンだ……」と直感してもらうという重要な役割を担っています。それも、遅くとも開始30秒以内に。
 これに失敗すれば、その先のプレゼンを聞いていただくことはできません。特に、説明会は一対多のプレゼンですから、イントロで気持ちをつかめなければ、アッという間に場の空気は弛緩します。スマホを見始める人もいますし、なかには眠り始める人もいるでしょう。その時点で、プレゼンは失敗が確定します。

 逆に、魅力的な「つかみスライド」をつくれば、一気に相手をプレゼンに引き込むことができます。いわば、社外プレゼンの最初の勝負どころと言えるのです。

ボディで「メリット」を連打する

 イントロで心をつかんでから、ボディに移ります。
 このパーツがプレゼンの本体(ボディ)。最も多くのスライドを使う、最重要パーツです。ここでは、聞き手の課題に対する解決策を提示したうえで、その解決策を実行することによって得られる具体的な効果・メリットを連打していきます。そして、相手に「なるほど、たしかにこの方法で課題を解決できそうだ」「この人の言うとおりにしたら、理想を実現できそうだ」と納得してもらったうえで、「もっと詳しく知りたい」「詳細の商談に移ろう」などとネクスト・アクションに踏み出す決断をしてもらうわけです。

 ここで、聞き手の「納得」「決断」を勝ち取るためには、自社がアピールしたい商品・サービスの特徴を訴えることに終始するのではなく、その商品・サービスによって聞き手の課題がどのように解決されるのか、そして、いかに望ましい未来をつくり出すことができるのかを、可能な限り具体的に提示することが重要。どこまでも、相手の目線でスライドを構成していくことを心がけてください。

 ボディ・スライドが終わったら、エンディングに入ります。
 ここでは、提案する商品・サービスに込めた「念い(おもい)」や、自社の「企業理念」を伝えます。企業トップが社外に向けて行うプレゼンでは、強く深い余韻を残すために、エンディングに相当のスライド数を費やすケースもありますが、一般のビジネスパーソンが行う営業プレゼンや説明会プレゼンでは、1枚のスライドで十分です。

 ただし、1枚のスライドであっても、このエンディングをないがしろにしてはなりません。このスライドが表現する「念い」や「理念」が、イントロやボディ・スライドの内容と整合性が取れていることによって、プレゼンの内容が相手の心のなかにしっくりと収まるからです。逆に、相手の心に響かないエンディングであれば、説得力に欠ける上滑りなプレゼンになってしまうでしょう。むしろ、エンディングで提示する「念い」「理念」こそが、プレゼンを根底で支える重要な要素なのです。

営業プレゼンは「3~5分」で終わらせる

 ここまでが、プレゼンの本編に当たります。
 通常、このあと、お客様や参加者と双方向のコミュニケーションを取りながら、より詳しい話をしていくことになります。この時間を確保するために、事前に時間配分をしっかり考えておく必要があります。

 営業プレゼンであれば、おそらく、商談のために30分から1時間を取ってもらっているはずですが、本編は3~5分で終わらせるようにしてください(下図参照)。一方的に話しをされるのを好む人はいません。ですから、できるだけ手短に商品・サービスの魅力を伝えて、すぐに質疑応答、さらに詳細の商談に入るほうがお客様の心理的な負担が少ないからです。

 説明会の場合は、あらかじめ時間が設定されますが、その時間のすべてを本編のプレゼンに充てるのは得策ではありません。参加者の質問・疑問に応えることで、さらに理解を深めていただくことができます。そのためには、コミュニケーションの時間を少しでも多く取ったほうがいいでしょう。

 そして、質疑応答の場面で使用するスライドが、アペンディックス(別添資料)です。

 これは、本編には盛り込むことができなかったデータや、本編の補足説明に必要なデータなどをストックした、いわば資料集。本編で示したメリット等の根拠を示したり、聞き手の質問・疑問に応えるものですから、抜け漏れなく万全のアペンディックスを用意する必要があります。

 ここで、聞き手の疑問に的確に応えられなければ、詳細の商談に入ることが難しくなるでしょう(なお、商談では商品パンフレットで説明するのが一般的です)。もちろん、本編プレゼンでお客様や参加者の心をつかむことができなければ、アペンディックスで形勢を逆転することはほぼ不可能ですが、商談に入るために非常に重要なパーツであると言えます。

 このように、社外プレゼンは「イントロ」「ボディ」「エンディング」「アペンディックス」の4つのパーツから構成されます。「イントロ」で心をつかみ、「ボディ・スライド」と「エンディング」で「なるほど、これはいい!」という心証をもってもらう。そして、「アペンディックス」で疑問を解消する。そんな流れをイメージしていただければOKです。

前田鎌利(まえだ・かまり)1973年福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、光通信に就職。「飛び込み営業」の経験を積む。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。各種  営業プレゼンはもちろん、代理店向け営業方針説明会なども担当。2010年にソフトバンクグループの後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア第1 期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも多数担当した。その後、ソフトバンク子会社の社外取締役や、ソフトバンク社内認定講師(プレゼンテーション)として活躍。2013年12月にソフトバンクを退社、独立。ソフトバンク、ヤフー、株式会社ベネッセコーポレーション、大手鉄道会社などのプレゼンテーション講師を歴任するほか、全国でプレゼンテーション・スクールを展開している。著書に、『社内プレゼンの資料作成術』(ダイヤモンド社)。