国内で培った「日本旅館メソッド」で
世界に積極的に展開していく
桜井 団塊世代がリタイアして、旅行に使う時間もお金もありそうですが、なぜ国内旅行が落ちてきているんですか。
星野 20代など若年層が減ってきているからです。いま旅行をしようと思うと、移動にかなりお金がかかるんですよね。自動車の運転免許や自家用車をもつ若者も減っていますし。昔はローカル線を乗り継いで当てもなく旅をするというのもアリでしたが、最近は乗客の少ないローカル線がどんどん減っているので、古きよき貧乏旅行はできない交通体系なんです。だから、休日を分散化させるとか、シニア割引はやめて若者割引をするとか十何年言い続けているのですが、なかなか変わりませんね。
桜井 そうか、でもそれだけパイが大きいとなると国内旅行の振興は大きな課題ですね。一社でなんとかできる問題でもないでしょうけれど…。話は変わりますが、国内以外に、最近は海外からも運営委託の引き合いが多いと伺います。
星野 そうですね、海外は積極的に出て行きたいので、良い案件は受けていきたいです。最近までホテル業界はスタンダード化がかなり進んできていて、エジプトでもロンドンでもニューヨークでも、たとえばヒルトンに泊まれば同様のサービスが提供されてきました。あるブランドを選べばどこへ行っても一定の快適さを担保されることが重視されたからでしょうが、そうした安心・安全レベルが当たり前になってきた今、エジプトらしさ、ロンドンらしさといった地域の魅力をホテルは反映すべきだという流れが増しているんです。だからこそ、急に日本旅館が注目され始めて、ずっとそれを手がけてきた私たちに声をかけてくださるんだ、と理解しています。
桜井 時代が追いついてきましたね(笑)。
星野 まさにそうです(笑)。地域の魅力を季節ごとに紹介する日本旅館って素晴らしい、その“日本旅館メソッド”こそが世界のホテルを変えていける可能性があると思っていただけている。
1年ほど前から手がけているタヒチのランギロワ島にあるリゾートでも、支配人を送り込んで“日本旅館メソッド”を導入し、フラットな組織にしてスタッフに意見を求めながらサービスを充実させてきて業績にも結びついています。たとえば従来のマニュアルでは、ビーチに寝ている人には判でついたようにピニャ・コラーダを出していたのですが、あれはリゾート風なカクテルというだけでランギロワ島の文化ではありません。飲み物だけでなく、地元の良さを伝えるにはどうすればいいか考えながらいろいろ変えてきています。現地のスタッフも目に見えてハツラツとしてきました。
桜井 海外ですと特に欧米などは、職階ごとに仕事が細かく決められていて、ここまでしか考えないしやらない、という文化があるように思えますが、日本式の個々人が自律的に動くスタイルに変えていけるものですか。
星野 基本的に私が日本の地方で経験してきた、「目の前にいるお客様に満足して欲しい」という気持ちは、欧米でもおそらくなんら変わらないでしょう。先ほどのタヒチの例でいえば、ランギロワ島という地元に対するプライドはむしろ日本の地方より強いかもしれない。そういう気持ちさえ持っていてくれれば、それを発揮してもらう環境や自由度を整えていくことで、みな変わっていってくれますね。
桜井 いやー面白い! 少し意外でしたけど、それは非常に楽しみですね。アジアに限らず、出て行かれる予定ですか。
星野 もちろんです。日本旅館メソッドが世界のホテルのあり方を変えていけると思っています。