みずから死と再生を繰り返せる
企業だけが生き残る

 とはいえ、スマホゲームが市場を席巻して以降、任天堂は苦境を強いられているとの報道も多い。この苦境を打破するヒントは、任天堂がこの30年間に成し遂げてきた変化にあるのかもしれない。2人は熱を込めてこう語る。

 ピクセルで簡単に表現されたビデオゲームに始まり、WiiFitの爆発的なヒットで地位を確立した任天堂は、ホームエンターテインメント産業の巨大企業へと進化した。その30年にわたる歩みは、ビッグバン・イノベーションの中央に君臨する企業の“生涯”について多くを物語っている。

新世代の製品を市場に送り出すたびに、任天堂はみずからを新たに構築し直さなければならなかった。エンジニアの技術的な専門知識や考え方を大きく転換させ、販売とマーケティングの新たなかたちをつくり出し、ゲームソフト開発業者との協力関係を育み、コンテンツを持つサードパーティとの関係も新たに築かなければならなかったのだ。

 インターネット接続という、比較的単純な──いずれにしろ、ユーザー側から見れば単純な──機能を家庭用ゲーム機につけ加えただけでも、任天堂にしてみれば、世界中に散らばる1億人近い消費者と頻繁に接触することになった。このひとつの機能によって、任天堂は長いサプライチェーンを通して製品を販売する企業から、大手サービスプロバイダーへの転身を図ったのだ。その関係は、ゲーム産業の世界を超えてさらに拡大しつつある。意図したにしろ、しなかったにしろ、任天堂はエンターテインメントエコシステムの中心に位置するのだ。

 NES(ニンテンドーエンターテインメントシステム)からWiiへの歩みによって、今日の任天堂は内部的にも外部的にも、1982年の頃の任天堂とはまったく異なる企業である。指数関数的技術が支配する世界ではそれがルールであって、例外はない。どの破壊的製品やサービスも、たとえ副次的な影響だけにしろ、企業のひとつのかたちの死と新たなかたちの誕生とをもたらす。(同124-125ページ)

 みずからのヒット製品を、みずから生み出したイノベーションで葬る――この過酷なサイクルを回してきたからこそ、あれほどの長期間、任天堂は繁栄の時を過ごしてきたのであり、復活のヒントもまたここにある、と言えそうだ。(構成:編集部 廣畑達也)

次回は、イノベーター企業の「悪夢」とも言うべき、突如として市場が飽和し、顧客に一斉にそっぽを向かれる緊急事態「ビッグクランチ」を生き残る方法について、あるガラスメーカーのブレない姿勢から学ぶ。3月17日公開予定。