日本では導入が難しいとされてきた「同一労働同一賃金」。突如、安倍政権が目玉政策として、導入に意欲を燃やし始めた。非正規労働者の処遇改善のツールとして利用しようとしているのだ。正社員と非正規労働者の格差是正──、まっとうな正論を前に、負担を被る企業は戦々恐々としている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)
発端は、1月22日の安倍首相による施政方針演説だった。ニッポン1億総活躍プランでは、「同一労働同一賃金」の実現に踏み込む考えだ──。
同一労働同一賃金とは、仕事の内容が同じ労働者には同じ水準の賃金を支払うべきとする考え方のこと。幾度となく労働分野のキーワードとして取り沙汰されながらも、日本では導入が難しいとして封印されてきた経緯がある。
日本の正社員では、職能給(能力に応じた賃金)制度が定着している。しかも、勤続年数を重ねると賃金もアップするという属人的な賃金制度が採用されてきた。職務給(仕事に応じた賃金)が定着している欧州とは異なり、人ではなく仕事にひも付く「同一労働同一賃金」の考え方はなじまない、とされてきたのだ。
突然の首相発言に、労働行政を所管する厚生労働省幹部たちは慌てた。「寝耳に水だった。完全に官邸発のアドバルーンだ」。ある内閣府幹部によれば、「昨年末から1億総活躍推進室では、参院選の目玉になる政策を探し回った。そこで白羽の矢が立ったのが同一労働同一賃金だ」という。
選挙対策もさることながら、官邸には別の思惑もあっただろう。2014年、15年の春闘では2年連続で賃上げが実現したが、3年目の今年は景気の先行き不透明から失速気味。次なるカンフル剤が必要だったのだ。
具体的には、どのように導入しようとしているのか。
官邸は、非正規問題の解消のための、つまり正社員と非正規労働者(パートタイム労働者、派遣労働者、有期社員)との格差是正のための“ツール”として、同一労働同一賃金を使おうとしている。
もともと同一労働同一賃金とは、男女差別をなくす目的で発生した言葉だが、今回は正社員と非正規労働者という雇用形態間の格差をなくすことを目的としている。同じ企業で働く正社員と非正規労働者との間にある、不当な格差が排除される仕組みになる予定だ。